備前堀1

水戸市備前堀界隈 (その１）

イバイチの
旅のつれづれ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(水戸市で作成したマップを一部修正した)
１．はじめに

　水戸市に備前掘という用水路がある。水戸千波湖から流れ出る桜川から取水し、大洗町との境界にある涸沼川に注ぐ全長１３ｋｍの農業用水路である。この用水路の歴史は古く、慶長１５年(1610)に水戸藩初代藩主徳川頼房の命で、幕府の関東郡代伊奈備前守忠次により造られたもので、水戸下市地区やその下流にある常澄地区の農業用水が不足するのを解消することと、当時は現在に３.８倍ほどの大きさだった千波湖の大雨時の洪水被害対策のためである。

　明治に入ると、明治２２年の水戸鉄道開通により千波湖の北側に水戸駅が造られ駅周辺湖畔の埋め立てが行われた。更に大正１０年から昭和７年にわたって県の千波湖干拓、開田事業計画が行われ、千波湖の約３分の２が干拓され残り３分の１が貯水池・風致湖として現在の千波湖が形づくられた。それによってそれまで千波湖の水は直接備前堀から取水する方式から桜川を経由して取水する方式に変更された。

　その後、昭和６３年～平成１３年にかけて桜川柳堤橋付近の取水口から三又橋までの備前堀の沿道に柳などを植えて緑道として整備し、側道も備前堀歴史ロードとして整備された。平成１４年には水戸市都市景観重点地区の指定を受け官民一体になって景観の維持改善に努めている。

　現在は新水戸八景の一つとして、備前堀歴史ロードとして整備された区間は、偕楽園公園や弘道館周辺などと共に水戸市の代表的景観になっている。その景観と近くにある旧水戸宿のたたずまいなどを見てみたい。

２．備前堀歴史ロード

 　備前掘の取水口は水戸から大洗・鹿島方面に行く国道５１号線が桜川を渡る柳堤橋の間近にある。取水口の近くに備前堀の説明板が置かれ、小さな屋根つきの休み場がある。備前堀歴史ロードはそこから約１ｋｍ先の三又橋までがメインになっている。(写真は桜川からの取水口、取水ポンプ場、休み場)

　対岸には伊奈備前守忠次を祀った小さな伊奈神社がある。すぐ近くに国道５１号線があり、備前堀に架かる橋は伊奈橋である。伊奈神社は昭和１０年（1935）に千波湖水利組合が伊奈備前守忠次の功績を称えて奉納したものであり、伊奈橋は備前掘最初の橋で同じく伊奈備前守忠次の功績を称えて名付けられたものである。(写真は伊奈神社、伊奈橋）

　伊奈神社の裏手の方に水戸の納豆工場の一つであるだるま食品がある。ここで製造された納豆が、だるま納豆という商品名で販売されている。また伊奈橋の国道51号線を少し大洗方面に行ったところに天狗納豆の製造工場と販売所がある。（写真はだるま食品と天狗納豆の建屋）

　水戸納豆が全国に知られるようになったのは明治２２年（1889）に水戸市から小山市までの水戸鉄道（現水戸線）が開通した時に駅構内で旅行客に販売したことに始まる。当時原料の大豆は大粒のものが多かったが、茨城で生産していた小粒大豆が納豆にすると独特な風味を醸し出したため、｢水戸の納豆は小粒で旨い｣と評判になって高い人気を得たためといわれる。

　備前堀は伊奈橋を渡ると左手に大きく蛇行し、水戸７社の１つといわれる旧三宝荒神の参拝路になっている荒神橋を渡った所に竈（かまど）神社がある。この神社は仏・法・僧の三宝を守護する三宝荒神を祀っているが、三宝荒神が火の神、竈の神とされていることから天保年間に竈神社に改称されている。(写真は大きく蛇行する備前堀の沿岸２景と荒神橋、竈神社２景と由緒板）

　竈神社を過ぎると水戸街道の起点になっている銷魂（たまげ）橋がある。江戸時代はこの付近まで千波湖だった筈で、備前堀もこの橋から始まったと思う。水戸の宿場町はこの橋から更に200mほど北上した所にある本町１丁目から本町３丁目の現在ハミングロードという通りである。銷魂橋は幕末の天狗党の乱の時、市川三左衛門を首領とする門閥派の藩兵が陣を構え、水戸藩主徳川慶篤の名代として水戸城に入ろうとした支藩の宍戸藩主松平頼徳（よりのり）一行を阻止し、水戸城攻防の最前線になった。その辺りの内容は小生のホームページ「イバイチの幕末の水戸」天狗党の乱２」を参考にして貰いたい。(写真は銷魂橋と説明の石柱）

　銷魂橋を過ぎると左手に市杵嶋姫神社という小さな社がある。祭神の市杵嶋（いちきしま）姫とは、素盞鳴尊（すさのおのみこと）の剣から生まれた宗像三女神という３人の美女神の一人で弁天様に見立てられている美人の神様である。水戸では市（いち）を守護する「市神さま」として広く信仰されている神社である。(写真は市杵嶋姫神社と解説板）

　市杵嶋姫神社の先に伊奈備前守忠次の小さな像が建立されている道明橋がある。この付近が備前堀歴史ロードの中心地で、灯篭流しの時は多くの僧侶が読経をして供養をする場所でもある。立像の近くにはだいぶ傷ついてしまった案内板が置かれている。(写真は道明橋と伊奈備前守忠次像３態）

また河畔には備前掘の由来を記した石碑が建てられている。道明橋とは江戸時代の酒造業者である道明作兵衛が田畑に往復するために私的にかけた橋から名付けられたと解説板に書いてある。

　備前掘の両側には遊歩道が設けられ、ベンチや石の腰掛が置かれている。また柳や桜の木が植えられて散策に良い場所である。備前掘周辺は紺屋町という名で、昔、備前掘でさらした布を加工する業者が多くあった名残で、現在も何軒かの染物屋が営業している。(写真は堀端の柳２景と染物屋３店）

　堀沿いの道は次の三又橋に続く。以前、備前堀はこの場所から二股に分かれ市街地にも流す水門があった。水の流れが三叉だったので、ここにある橋が三又橋と呼ばれるようになった。現在は下市中央部を流れる掘割は埋め立てられたため、水門の外観だけが当時の面影を残している。(写真は三又橋、橋脇の休み場所、水門、解説板）

　三又橋を過ぎると堀幅は半分くらいに狭まり、側道も狭くなって瓦谷不動尊の参拝路である金剛橋という歩行者用の橋がある。(写真は三又橋の下流、金剛橋、瓦谷不動尊）

　また明治から大正にかけて名横綱として今日の大相撲隆盛の基礎を築いた常陸山が、水戸市郊外の酒門共有墓地にある先祖の墓参に行く時、道筋にある備前堀に架かる木製の橋が壊れかけていたので、大正初年に石造りの橋に架け替えたといわれる旧常陸山橋（備前堀歴史ロード整備により平成２年に架け替えられた）がある。更にその後道路改修によって新しい造られた常陸山橋があるが、そこを過ぎると普通の川の形態になる。(写真は新常陸山橋２景、旧常陸山橋）

　しかし備前堀の真価が現れるのは市街地を離れたここから先で、堀の両側に広がる田圃に用水を供給していることである。要所に用水を汲み上げるポンプが設置され、田圃の畦道毎に流す水をきめ細かく送っている。
　現在も水利組合がその管理を行って広い面積に過不足なく用水を送っており、無くてはならない存在として多くの田畑を潤しているのである。(写真は市街地を過ぎた備前掘２景、ポンプ小屋、備前掘とたわわに実った田圃２景）

（以下次号）
　
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