平成25年後半のお薦めの本             2014年 1月 27日 (月)
 昨平成25年(2013)は82冊の本を読んだ。平成24年は78冊だったので、少し多い。その内、前半に40冊(前年34冊)、後半に42冊(前年44冊)である。平成25年前半に読んだ本の5冊を半年前に紹介したので、今回は後半に読んだ本の中から印象に残った5冊の本を紹介したい。

椿と花水木(上・下) 津本 陽    1994年〈平成 6年〉 3月発行
花 宴           あさのあつこ 2012年〈平成24年〉 7月発行
壷中の回廊      松井 今朝子2013年〈平成25年〉 6月発行
村上海賊の娘(上・下)  和田 竜   2013年〈平成25年〉10月発行
玉繭の道       仁志 耕一郎 2013年〈平成25年〉10月発行

1. 椿と花水木 (上・下)

 この本は副題に[万次郎の生涯]とある様に中浜万次郎ことジョン万次郎の生涯を描いている。この本を読んだきっかけは昨年(平成25年)9月に四国旅行で高知の桂浜で坂本竜馬の銅像を見た時に、ガイドに「今回は行かないが室戸岬に中岡慎太郎、足摺岬にジョン万次郎の銅像がある」と言われて関心を持った時からである。

 最初は発売されたばかりの山本一力の「ジョン・マン(波涛編)(大洋編)」があるのを知っていたのでそれを読むことにした。更に第3巻目の「ジョン・マン(望郷編)」も読んだが、万次郎が難破して鳥島に漂着し、半年後に米国の捕鯨船に助けられて米国で暮らすところまでのストーリーでまだまだ続きがありそうだった。また山本一力の文体は江戸の人情噺には向いているが、このような伝記にはそぐわないと思ったので他の本を探したところ、この「椿と花水木」に出会った。

 図書館で調べたら平成6年の発行で古い本の扱いになっており、書架に陳列されておらず書庫に保管されていた。題名の「椿と花水木」は、長い捕鯨漁に出港する時、妻のキャサリンに「子供が出来たらアメリカと日本の思い出の深い木の名前をつけたい。男なら花水木、女なら椿だ。」と話したが、航海中に妻は亡くなりそれが果たせなかったことから名付けられている。

 万次郎は捕鯨船に救助された後、その勤勉さと努力を惜しまない事で助けてくれた捕鯨船船長に愛され、アメリカに連れ帰って養子にして貰った。更に現地で英語の読み書きを覚え、現地の大学を首席で卒業し良き伴侶も得たのである。そして捕鯨船の副船長兼1等航海士の資格を取り3年間の捕鯨航海に出港した。しかし航海から戻った時、最愛の妻が不慮の事故で亡くなったことを知らされた。

 万次郎は失意と望郷の念から日本に帰国することを決意し、多くの困難を乗り越えて黒船来航で騒然とした日本に帰国した。翌年ペリーとの和親条約で通訳として起用された。当時英語をまともに話せるのは日本には万次郎しかいなかったのである。しかしそれを嫉むオランダ語の通訳などが万次郎は米国のスパイだという疑惑を言い触らし通訳を下されてしまった。

 従来の因習に囚われ、人より抜きんでた者の足を引っ張る日本人の悪しき特性がこの様な時も発揮されたのである。その後も咸臨丸での遣米使節団の一員としてアメリカに渡った時も船長の勝海舟がまともな指揮をとれないため、代わって船内の秩序維持に努めたが、高位の武士で無いものがアメリカ人と対等に話すのはおかしいなど日本人船員に嫉まれたりした。

 万次郎の波乱万丈の生涯と身分制度に囚われ、島国根性でしかものが見られない幕末の日本人の対比が良く描かれており、今に続く日本人の考え方が浮き彫りにされていることが深く印象に残った。

 津本陽の作品は「下天は夢か」の頃はファンだったが、その後書き過ぎたせいか筆が荒くなってきてから読まなくなっていた。しかしこの本は必読に値する本である。

2. 花宴(はなうたげ) 

 あさのあつこは「バッテリー」で1000万部を超えるベストセラーで知られた児童文学作家として知られているが、最近は時代小説も書いている。ここ4〜5年間に弥勒シリーズなど6冊を読んでいる。弥勒シリーズは主人公のキャラが明確で大分楽しく読めた。

 花宴(はなうたげ)は小太刀の名手のヒロインが、想う人と添えず別な男と夫婦になるが、夫との間はなかなか上手くいかない。しかしお家騒動で夫の気持ちが判り、以前想っていた人と小太刀で対決するシーンがクライマックスなのだが、その気持ちの転換の表現を緊張感あふれる結末に持って行くのが読み応えのあるところである。

3. 壷中(こちゅう)の回廊
 

Img_3006 松井今朝子の作品は「吉原手引帳」で直木賞を取る以前からだいぶ読んでおり、「壷中の回廊」は17冊目に読んだ作品である。作者の書く舞台は江戸後期の吉原、歌舞伎を含む芝居小屋、明治初期の文明開化の幕開けなどが多いのだが、今回は昭和初期の歌舞伎の殿堂だった木挽(こびき)座での殺人事件というミステリーである。

 歌舞伎役者や芝居小屋と言うと取っ付き難いと思うが、その辺りは良く判るように説明してくれているので安心である。ストーリーは殆んど歌舞伎の芝居小屋の中やその近辺で事件の発生から終章まで展開するので、それが「壷中の----」の題名になったと思うが、昔はこんな風に考え、行動をしたんだった、とある程度理解できるのはこちらも年をとったせいかもしれない。作者の文体は嫌いでないが、今回は一件落着の後のフォローが少しくどすぎる感じがした。

4. 村上海賊の娘

Img_2996_2 和田竜の本は「のぼうの城」「忍びの国」「小太郎の左腕」を前に読み、今回は4作目である。「のぼうの城」「忍びの国」が面白く読めたので、今回も期待しいて読んだ。
 村上海賊とは現在のしまなみ海道が通る因島、能島、来島などの芸予諸島を根拠地とする海賊である。戦国時代末期は瀬戸内海には多くの海賊が割拠していたがその中でも勇猛で恐れられていたのが村上海賊である。

 時は大坂(石山)本願寺と織田信長が7年間にわたって争い、信長が兵糧攻めを始めた頃である。一向宗門徒たちの要請に応じて毛利家が兵糧を運びこむための援軍としての村上海賊とそれを阻もうとする信長方の真鍋海賊との戦いがクライマックスになる血沸き肉躍る物語で、その主人公が村上海賊の棟梁の娘の景姫である。

 対する悪役は真鍋海賊の頭の真鍋七五三兵衛(しめのひょうえ)という男で、恐れを知らない怪力の男だが憎めないキャラクターである。ほかにも大勢の人物が出てくるが、それぞれ独特のキャラが際立っていて判り易い。信仰に殉じようとする宗徒たちとそれを利用して戦わせる真如側近の男、織田方に就くか毛利方に就くか家の存続を第一に考えて行動する海賊の頭たち、その中で己の信念に従ってただ一人だけでも行動しようとする景姫を見て、それに呼応して馳せ参じる村上海賊衆など。エンターテイメントの魅力あふれる作品である。

 蛇足ながら、この海戦は第一次木津川口の戦いというもので、織田方水軍は壊滅的打撃を受けたのだが、その2年後信長は鉄甲船を建造して毛利水軍・村上水軍を破って制海権を取り戻し(第二次木津川口の戦い)、その結果兵糧や武器の搬入が出来なくなった石山本願寺の顕如は信長に降伏することになった。

5. 玉繭の道

Img_2984 本能寺の変の時、堺に滞在していた徳川家康が命からがら堺から伊賀を通り伊勢に抜けて三河に戻った時、家康に肩入れし行動を共にした京の呉服商茶屋四郎次郎の物語である。この作品の前半は堺から伊勢に逃げ戻った苦難の足取りを追い、後半も家康を助けて鉄砲、弾薬を送り届けた四郎次郎が、最後には呉服商として生きて行く覚悟を決める話である。

 前半の緊迫した描写に比べれば後半の四郎次郎の内面の描写は物足りないが、作者の仁志耕一郎は歴史時代作家クラブ新人賞を受賞した新人で、今後が楽しみである。

 
 

 小生が読む本は時代小説が5で、スリラーものが4、その他1くらいの割合だが、今回取り上げた本は時代小説4とスリラーもの1だった。今回は紹介したいと思った本が少なく選ぶのに苦労したが、作品の構成や文体が前の作品と似通っていて気楽に読んだものが多かったせいかもしれない。

 同じ作者の作風はどうしても似かよってしまうし、シリーズ物になると書く方も読む方もそこに安住してしまうせいか、あたりまえの感想しか出てこないのでつまらない。今年はベテランに刺激を与えるような清新気鋭の作家の作品も務めて読みたいと思う。

(以上)

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