去年(平成29年)は79冊の本を読んだ。一昨年は76冊だったので、月平均6〜7冊読んだことになる。最近はあまり肩が凝らず2〜3年以前に発行された本を読むことが多い。
今年の正月も10冊近く読んだが、その中から篠田節子の「竜と流木」と池井戸潤の「陸王}について述べてみたい。
(1)竜と流木 篠田 節子 2016年5月発行
(2)陸王 池井戸 潤 2016年7月発行
(1) 竜と流木
篠田節子の本は「仮想儀礼」以来しばらく読まなかったが、最近「となりのセレブたち」「冬の光」を読んだ。そして今回最新作である「竜と流木」を読んだ。
話の内容は、ある南の島で、水を浄化するウーパールーパーに似た可愛らしい生物ウアブが、環境の変化によって変異し、思いがけない黒いトカゲに似た害虫になってしまう恐怖。
一方島の古老たちの話として昔この近くに竜が住むという無人島があったが嵐と地震で海中に没したので、付近の島に流木に乗った無数の竜の子供が流れ着いていろいろな形や色のトカゲになって住民の生活を守り、共存しているという言い伝えを知る。
主人公はこのウアブが生息している泉が開発によって干上がるというので、専門家を交えた保護団体を作り、少し離れた泉に移すことにしたのだが、それが黒いトカゲ状の生物が増えた原因になったことが分かった。
しかしそれを駆除していく方法が銃で急所を狙って殺す以外になく、被害は急速に広がっていく。そして最終的にそれを根絶できるのはこの黒いトカゲを食べる生物を見つけて黒いトカゲのいる場所に向かわせることだった。
昔からの言い伝えと環境変化による変異、そしてそれを収束させるのは、人間ではない自然の営み、そして昔からの自然との共生をする現地人の生き方の知恵などが、文明社会にどっぷりつかった我々との対比を際立たせている。
(2) 陸王
下町ロケット」を書いた池井戸潤の昨年ドラマ化された新作である。主人公は埼玉県行田市にある百年の歴史を持つ足袋作り業者で、従業員20名程度の「こはぜ屋」という零細企業の社長である。
業績がじり貧になって行く中で、社長は足袋製造の技術を生かしたランニングシューズの開発を思い立つ。
最初は社内の3人で試作品を作ることからのスタートだったが、紹介されたスポーツ店のインストラクターから走るとはどういう事かと問われて、足袋のように足にフィットして軽いシューズというコンセプトで作ることになった。
試行錯誤しているうちに、シューズの靴底にあたるソールという部品が重要であることが分かってきた。ソールが薄すぎると直ぐにすり減ってしまうし、厚いと重くなって走りにくいということである。
そのうちに倒産した零細企業主が繭で作ったソールの材料の特許を持っていることが分かり、探し出して技術顧問になって貰った。更に大手スポーツ会社に所属していて選手へのアドバイスなどをするシューフィッターとよばれる男が上司との考え方の違いから退職したことを偶然知り、アドバイザーとして協力して貰うことになった。
そのようにして多くの人の協力で開発したシューズを、故障から再起を期してサポート契約をした選手が全日本のマラソンに出場することになったが、その直前新しいソールを作る機械が壊れて使用不能になってしまった。
厳しい企業経営の実態を従業員はじめ多くの人の協力で乗り越えていく、池井戸ワールド全開のロマンあふれる感動の一冊である。
top↑
(この項おわり)