飯塚1

医王寺

　文知摺観音から信夫山トンネルを通り、国道１３号線に出て飯坂温泉への道に入る。福島交通飯坂線の医王寺前と云う電車の駅からの細道を行くと医王寺に着く。拝観料を払うと受付の小父さんが源氏と医王寺の関係をいろいろ説明してくれた。その小父さんは俳人であると言い、「その昔　一太刀浴びた　化け地蔵　　鳩呼」　という句をわざわざ書いて披露してくれた。鳩呼とはこの小父さんの俳名である。
　この寺は、昔この信夫の荘の司だった佐藤氏の菩提寺である。おくのほそ道には「佐藤庄司が旧跡を尋ね尋ね行く」とあるが庄司とは荘園を管理する役名で、佐藤氏は平泉の藤原氏の荘園を管理していたのである。
　源平時代に大鳥城主の佐藤基冶は源義経が旗揚げをした時、二人の息子の継信，忠信を参加させた。二人は義経の側臣として活躍したが、兄継信は屋島の合戦のとき義経を射ようとした能登守教経の矢を盾となって受け討死した。また弟忠信は頼朝と不和になった義経一行が京都堀川で苦境に陥った時、一行を脱出させるため義経を装って戦い討死した。
　奥州に下った義経一行は平泉に向かう途中、継信，忠信の父である大鳥城主の基冶に会い、二人の武勲を伝えると共に当寺で追悼の法要を営んだ。

　兄弟の奥方たちは老母乙和御前の悲しみを慰めるために、甲冑を身につけて兄弟の凱旋の勇姿を装い、姑を慰励したという話があり孝心の鑑として語り伝えられている。
　芭蕉は佐藤氏の城跡を迷いながら探し、医王寺の墓地を訪れ、白石にある甲冑堂で二人の嫁の像を見た。「おくのほそ道」には　｢尋々行に、丸山と云に尋あたる。是昇司が旧館也。麓に大手の跡など、人の教ゆるにまかせて泪を落し、又かたはらの古寺に一家の石碑を残す。中にも二人の嫁がしるし、先哀也。女なれどもかひがひしき名の世に聞えつる物かなと袂をぬらしぬ。----」　と記している。医王寺本堂にも「若桜」「楓」という二人の嫁の人形がまつられている。
　本堂の前に芭蕉の句碑がある。「笈も太刀も　五月にかざれ　帋幟（かみのぼり）」の句である。芭蕉がこの地を訪れたのは「五月朔日の事也」とある。宝物殿には芭蕉の坐像や県重要文化財に指定されている弁慶の笈などが陳列されている。

　広い境内には本堂の裏手に義経が植えたといわれる杉の大木がある。また義経を中央に、向かって右側に継信、左側に忠信の３体の石像が最近建てられた。参道の奥には鯖野のお薬師と呼ばれる薬師堂があり、その背後に佐藤家一族の墓碑がある。継信，忠信の墓は同じ囲いの中にあり、大きな自然石を積み重ねてある。鎌倉幕府の時代は中央から謀反人扱いされていて正式な墓が作れなかったからである。
　またつぼみのまま花が咲かずに落ちてしまうので、二人の母親である乙和御前に因んで「乙和の椿」と呼ばれるようになった椿の古木や松平定信の漢詩，和歌の碑などが静寂なたたずまいの中にある。

飯坂温泉

 　医王寺から飯坂温泉までは車で５分ほどの距離である。福島交通の飯坂温泉駅前に芭蕉の像が建てられている。芭蕉は飯塚（飯坂温泉）について　「温泉（いでゆ）あれば湯に入て宿をかるに、土坐に莚を敷てあやしき貧家也。灯もなければ、いろりの火かげに寝所をもうけて臥す。夜に入て雷鳴（かみなり）、雨しきりに降て、臥る上よりもり、蚤・蚊にせせられて眠らず。持病さえおこりて消入斗（きえいるばかり）になん。短夜の空もやう々明れば、又旅立ぬ。」とおくのほそ道に記しており、いかにもひどい所の様な表現だが、曽良の旅日記には「夕方ヨリ雨降、夜ニ入、強。飯坂ニ宿。湯ニ入。」とあるだけで、芭蕉は書全体の構成上、実際より誇張して表現している。

　温泉街の中央を流れる摺上川に降りる細道から階段を下っていくと、今は無い「滝の湯」跡に芭蕉記念碑として飯塚の段を刻んだ碑が建っている。芭蕉はここの湯番小屋に泊ったといわれている。階段の両側の旅館群には廃業しているところが多く。うらぶれた感じで、芭蕉の記念碑が皮肉な所に建てられていると思った。
　（H13-10-8訪・H19-12-4再訪）

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注２）　青字は「おくのほそ道」にある句です。
注３）　緑字は「おくのほそ道」の文章です。

H21-9-11作成