イバイチの奥の細道漫遊紀行

[ 武隈の松 ]

H21-9-21作成 

 白石から4号国道を北上し岩沼に向かう。この辺りは道も空いていて快適などライブが楽しめる。6号国道と合流して直ぐ竹駒稲荷神社への案内標識が出るので、それに従って日本3稲荷の一つとされる竹駒稲荷神社に行く。芭蕉が訪れた武隈の松は神社から5分ほど歩いたところにある。「おくのほそ道」には「飯塚」の後「笠島」武隈」の順になっているが、実際に訪れたのは「武隈の松」が先である。

 芭蕉は、甲冑堂から白石を過ぎて岩沼に泊った様に「おくのほそ道」に記しているが、曽良の旅日記によると実際は白石に泊った後、岩沼の竹駒明神の裏手にある武隈の松を見た。その後、笠島に行く道を間違えて行き過ぎてしまい、そのまま名取川,若林川(現在の広瀬川)を渡り仙台まで行って泊ったと記している。竹駒稲荷神社は歌人としてまた書の達人として知られた小野篁(おののたかむら)が陸奥守として着任した時に奥州鎮守を祈願して創建した(承和9年(842))と伝えられる大きく立派な神社である。(写真は竹駒稲荷神社の向唐門と拝殿)

 当時、多賀城が出来る以前の国守の館はにこの武隈の地にあった。神社の境内入口に大鳥居があり、そこから少し入った右手に芭蕉の「さくらより 松は二木を 三月越し」の句碑がある。隣には芭蕉百年忌にあたる寛政5年(1793)に、この句碑を建てた東龍斎謙阿という人の「朧より松は二夜の月にこそ」という芭蕉より立派な句碑が並んで建っている。



 竹駒稲荷から武隈の松に行く案内標識は無いので、近くにあるが神社でよく道順を聞かないと分かりにくい。芭蕉は歌枕の地である武隈の松(二木の松)を見て、「桜より 松は二木(ふたき)を 三月(みつき)越シ」 の句を詠んだのだが、この句について「おくのほそ道」では、弟子の挙白が深川出立の時の餞別句として「武隈の 松みせ申せ 遅桜」を贈ってくれたので(それに答える意味で)と説明している。江戸を陰暦3月27日に出立してから足掛け3ヶ月が過ぎ、(実際には1ヶ月あまりなのだが)遥かにも来たものだなとの感慨が伺われる。 「武隈の松」は、この地に昔からある松の名木で、平安時代に藤原元善(良)朝臣という人が陸奥守として下向した時に、この松が枯れていたので小松を植え継がせたが、後年になって再任された時にその松を見て「うゑし時 ちぎりやしけむたけくまの 松をふたたびあひ見つるかな」 と詠み、後撰和歌集に入れられた。以降、歌枕「武隈の松」として多くの歌人によって詠まれている。

 「拾遺和歌集」藤原為頼 「たけくまの 松を見つつやなぐさめん 君がちとせの影にならひて」。 「後拾遺和歌集」橘季通 「武隈の 松はふた木を都人 いかがと問はばみきとこたへむ」。  「後拾遺和歌集」僧正深覚 「武隈の 松は二木をみ木といふは よくよめるにはあらぬなるべし」。 「後拾遺和歌集」能因法師 「武隈の 松はこのたび跡もなし 千歳を経てやわれは来つらむ」。 「実方集」藤原実方 「みちのくに ほど遠ければたけくまの 松まつ程ぞ久しかりける」。 「山家集」西行 「枯れにける 松なき跡の武隈は みきと言ひても甲斐なかるべし」 など数多くある。二木の松の傍らに明治時代に建てられた歌碑があり、藤原元良と橘季通の2首の歌が万葉仮名で記されている。

 「おくのほそ道」武隈の段のはじめに、「武隈の松にこそ、め覚る心地はすれ。根は土際より二木にわかれて、昔の姿うしなはずとしらる。先(まづ)能因法師思い出(いず)。」と記されているが、「め覚る心地」とは徒然草にある「いづくにもあれ、しばし旅だちたるこそ、めさむる心ちすれ」を引用したとの事である。「昔の姿うしなはず云々--」は、今でこそ昔の姿を失わずにあるが能因法師の和歌にあるように跡形も無くなってしまった時もあるのだ。と述べ、その後にその説明とそれを乗り越えて現在のめでたい松の景色があると記している。「往昔(そのかみ)、むつのかみにて下りし人、此木を伐て名取川の橋杭にせられたる事などあればにや、『松は此たび跡もなし』とは詠たり。代々、あるは伐(きり)、あるひは植継などせしと聞に、今将(はた)千歳のかたちとゝのほいて、めでたき松のけしきになん侍し。

 今は二木の松史跡公園という小さな公園が造られているが、大きな通りに面した場所に7代目とかの樹齢150年になる見事な松が根本から二つに分かれて聳えている(芭蕉が見たのは5代目だそうである)。しかし現在は車の騒音で落ち着いて昔を偲ぶ気分にはなれず、公園内の少し奥まった場所に建てられている芭蕉の句碑の前で少し休んだだけだった。
 (H14-5-6訪、H19-12-5再訪)


注1) 写真をクリックすると大きくなります。
注2) 青字は「おくのほそ道」にある句です。
注3) 
緑字は「おくのほそ道」の文章です。



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