山旅の序曲 イバイチの
旅のつれづれ


 昨年末、古い書類の整理をしていて、昭和30年(1955)発行の小冊子を見つけた。平成25年(2013)の58年前のものである。当時社会人になって寮生活をしていた時で、寮生の有志が集まり、募集した原稿を鉄筆で清書し、謄写版印刷から装丁製本までを全部自分たちで完成させた思い出の文集である。

 19才から25才頃までの寮生の書いた文集なので、若さと気概に満ちた作品が多かった。その頃はまだ高度成長前夜の仕事も比較的余裕があった時代で、入社して数年しか経っていない小生は仕事の合間には山歩きに夢中だった。それで山旅の楽しさを寮生の皆に伝えたいと思い、その文集に表題の短いエッセイを書いた。

 いま読み返してみてもその頃の熱い思いがよみがえる。難しい山の岩登りなどする訳ではなく、尾根を縦走するくらいの山旅だったが、その頃から長い年月が過ぎ、老境に達した現在も当時と同じ感慨に浸れるというのは何故なのだろうか。自分の考えに進歩が無いせいだろうか。自分だけの独り善がりの事なのだろうか。以下に殆んど原文のままに記すので、読者の感想を聞きたいものだ。
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『山旅の序曲』

 朝、山小屋の夜明け、雲海に漂う山なみの素晴らしさ。眺めているうちに心の奥底から全身がふるえるように、形容出来ぬ感動に包まれる。また残雪の山をあえぎあえぎ登る時、突然視界が開けて目指す頂上が間近に浮かび上がり、一陣の冷風が汗びっしょりの身体を心持良く吹き過ぎると、疲れも吹っ飛んでしまい、何も考えずに山の雰囲気に身をまかせる。そして山頂に立ってくゆらす紫煙の間から四方の山々を見渡す時、広々とした心は雲のように飛び走り、すべてを忘れて大声で叫び、また歌いたいと思う。

 山への憧れは春とともにはじまる。美わしの五月となれば、下界はもう春も晩い。だが高い山々はまだまっ白な雪に覆われている。奥秩父、浅間高原はまだ春の始めで、萌黄色の新芽もさわやかな落葉松林を逍遥する楽しさは一生忘れられないだろう。
(写真は左からS30.5月の浅間高原、S31.4月の八ヶ岳高原、S29.6月の美ヶ原白樺平、S28.4月の松原湖)

 霧雨がうっすらとかかると、やわらかな感触に囲まれて夢の中を歩いているようだ。時折、鶯だけが静かな山の空気をふるわせて鳴いている。霧のかなたに一筋に続く道の傍らにリュックを下して暫く疲れた体を休める時、もし同行の友が詩人や画家だったらすばらしい傑作を残すことは間違いあるまい。いやたとえ詩人や画家でなくても、誰でも自分の心の中で詩をうたい、絵を画くのである。
(写真はS31.4月の八ヶ岳高原、S28.4月の奥秩父山麓、S31.4月の荒船山)

 今年も間もなく五月の連休になると思うと、心はもう山に飛んで行く。若々しい新芽の香りは限りない魅力になって人を魅きつける。それはやがて来たるべき夏山の前奏曲であり、はじめて山に行く人々に山の良さを味あわせてくれる機会でもある。山に登ると誰でも純な気持ちになる。そして雄大なる大自然の懐に抱かれて数日を過ごした後、人間社会に舞い戻ると、恰も純白のハンカチを泥水に落とした時のようにこせこせした空気に混濁されてしまうのが残念である。そしてその気持ちが、やがて再び三たび、のびのびしたおおらかな、そして純なる空気を求めて、山旅の計画をはじめるのである。
(写真はS28.4月の瑞牆山遠望、金山平からの金峰山と瑞牆山、S29.5月の渋峠からの草津白根山)


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思い出の山旅


1白根三山縦走
 

2裏銀座,槍穂高  縦走

3尾瀬から
   会津駒へ


4後立山縦走

5仙丈,甲斐駒,  鳳凰

6奥秩父主峰縦走

7山旅の序曲

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