上田・塩田平2

’１４上田千本桜観覧と塩田平逍遥　2

イバイチの
旅のつれづれ

　　　　　上田千本桜と塩田平逍遥
　　　　　　　　　　　　　　　　（平成２６年４月１６日～４月１７日）

　　　　　　　第１日　　海野宿－信濃国分寺－上田城跡公園　
　　　　　　　第２日　　塩田平（北向観音周辺－前山寺周辺）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（自家用車で）
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３．塩田平（１）

　翌日も良い天気である。朝８時にホテルを出て塩田平にある別所温泉に向かった。上田駅からは上田電鉄別所線というローカル線が別所温泉駅まで走っている。この上田電鉄別所線も他のローカル線同様に経営は苦しく、上田市からの補助金や多くの人の支援を受けて存続しているそうである。

　別所温泉を含めた上田市南方に広がる平地は塩田平と呼ばれ、鎌倉・室町時代の多くの寺院が点在しているので、信州の鎌倉と呼ばれている。塩田平の西端に位置しているのが別所温泉で、平安時代に清少納言が「湯は七久里、有馬の湯、玉造の湯」と枕草子に書いている七久里（ななくり）という温泉がこの別所温泉のことを示しているとする説が多く、日本で最古に近い温泉である。

別所温泉駅のホーム内に観光案内所がある。駅構内には上田電鉄の最初の新造車両だったモハ５２５０(丸窓電車)が展示してある。乗降する時のドアが開閉する場所が丸窓になっていることから愛称になったようである。駅のホームの向い側にあるサクラはまだ６分咲きぐらいだったが、駅構内入口のサクラは満開で駅舎の建物と良くマッチして鄙びた春の風情を醸し出している。(写真は丸窓電車、ホームの向い側のサクラ、駅構内入口のサクラ）

① 北向観音堂



　別所温泉には北向観音堂、安楽寺、常楽寺という寺院がある。まず別所温泉の中心部にある北向観音の駐車場に車を置き、北向観音から徒歩で参詣する。北向観音堂は平安時代に慈覚大師円仁によって創設されたといわれている。この寺は千手観音を本尊として北向きに建てられ厄除開運の観音堂とされている。本堂が北向きに建立されているのは珍しく、長野の善光寺が南向きの建立であり、阿弥陀如来を本尊として未来の極楽往生を願うのに対し、北向観音堂は現世の利益を願うという事で、この相対する寺院を参詣するのが良いとされている。鐘楼の手前にある手水舎からは温泉水が湧出している。（写真は北向観音参道入り口、観音堂正面、観音堂側面、かつらの木・鐘楼・手水舎）

　観音堂境内の、向かって右側にある鐘楼の後ろに大きなかつらの木がある。案内板によると北向厄除観音の霊木としてあがめられており、愛染かつらと呼ばれている。境内の向かって左手には愛染堂があり、愛染明王が祀られているので、それと関連付けての名称であるが、第１回直木賞の受賞者である川口松太郎が昭和１３年に発表した小説の題名になっており、映画化されて当時人気のあった田中絹代、上原謙の主演で大きな反響があった。（写真はかつらの木、かつらの木の案内板、愛染堂）

　主題歌である「花も嵐も乗り越えて行くが男の生きる道 ---- 」で始まる「旅の夜風」も大ヒットして戦後も良く歌われていた。この小説と映画の大ヒットによってこの木も「愛染かつら」と呼ばれるようになったのである。今では別所温泉の名所のひとつであり縁結びの霊木として親しまれている。

　「愛染かつら」の木の近くに「温泉薬師瑠璃（るり）殿」という名の懸崖造りの建物がある。温泉の効能に併せて病気を除き解脱するという温泉薬師信仰に由来するものだそうで、瑠璃殿という名は、薬師如来を瑠璃光如来とも呼ばれるところから付けられた名前だそうである。（写真は温泉薬師瑠璃殿）

　その建物の前には北原白秋の歌碑や中村雨紅の「夕焼け小焼け」の歌碑がある。この二つは昭和３７年建立だそうだが、もうひとつ松尾芭蕉の「観音の甍（いらか）見やりつ花の雲」という安永３年建立の句碑がある。この句は芭蕉が深川の草庵で浅草寺の屋根を見て作った句で、北向観音で創った句ではないが全国の観音菩薩を祀った寺院２０カ所近くに、この句碑が建立されているそうである。（写真は芭蕉句碑）

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② 安楽寺　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　北向観音から安楽寺に向かう。安楽寺には長野県で最初に国宝に指定された八角三重塔がある。因みに長野県で国宝に指定されている建物はここの八角三重塔の他に青木村の大宝寺三重塔、大町市の仁科神明宮中門・釣屋・本殿、松本市の松本城大天守・小天守・渡櫓・辰巳付櫓・月見櫓、長野市の善光寺本堂の５ヶ所だけである。

　安楽寺は信州最古の禅寺で、創建は不明だが北向観音が平安時代に慈覚大師円仁によって創建された時に別所三楽寺として長楽寺（現在は廃寺になっている）、安楽寺、常楽寺が建立されたとの言伝えがある。常楽寺と共に北条氏の庇護を受け、鎌倉時代には相当の規模を持った禅寺だったようである。

　北向観音入口と相対して「崇福山（そうふくざん）」という扁額がある黒門と呼ばれる入口の門がある。「崇福山」は安楽寺の山号であり、この門は寛永４年（1792）に建てられ安楽寺境内の入口であることを示している。黒門を過ぎてしばらく歩くと専用の駐車場があり階段を上った所に山門があり正面に本堂と鐘楼が臨める。鐘楼の手前にはまだ紅白の梅が満開だった。
（写真は黒門、鐘楼手前の白梅、同紅梅）

　八角三重塔は本堂の裏手の坂を大分登った山腹にある。建立は鎌倉時代末期で、八角塔では日本最古にして現存する唯一の塔である。この塔は禅宗様式で初重に裳階（もこし＝ひさし状のもの）をつけて四重塔に見える珍しい形式である。周囲には檀家の墓地が囲んでいる。下りる途中花を持った参詣の人とすれ違ったが、年寄りの肉親は上って来るだけでも大変だろうと思った。（八角三重塔３景、八角三重塔案内板）

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③ 常楽寺
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　安楽寺から常楽寺に行く案内標識に従って山腹の見晴らしの良い小路を行くと、５～１０分位で常楽寺に着く。この寺は北向観音の本坊になっていて、天台宗の別格本山である。萱葺きの風格ある本堂は江戸時代中期の建立で、市の文化財になっている。正面中央の階段の部分は唐破風の向拝という名称である。本堂の前庭には「御船の松」という樹齢３５０年で長さ１８２m、幅１０３あるという宝船の形をした立派な松がある。（写真は常楽寺本堂、御船の松２景）

　本堂の裏手には重要文化財指定の石造多宝塔がある。多宝塔とは上下二層の屋根がある塔だが詳しくは案内板を見て貰いたい。木造の多宝塔で重文になっているのは多数あるが、石造のものはこの寺の塔と滋賀県にある塔の二つしかないそうである。（写真は石造多宝塔、石造多宝塔の案内板、石造多宝塔と左右にある石造多層塔---向って右側が里帰りの多層塔、三塔の案内板））

　石造多宝塔の向かって右側に市の文化財に指定されている石造多層塔が置かれている。案内板にある様に散逸してしまったものを持ち主に懇願して６０年振りに戻して貰ったので、「里帰りの多層塔」と呼ばれている。柵外の案内板周辺にも小さな多宝塔などが沢山並んでいた。（写真は重文の石造多宝塔と市文化財の石造多層塔の解説板、小さな多宝塔２景）

　本堂の向って左側に常楽寺美術館がある。先代の住職が集めた全国有名寺院の古瓦を、飛鳥時代・平安時代から明治まで500点余りを収蔵し、主なものを展示しているそうである。また乙女観音と呼ばれる聖観音像などの仏像・仏画３００点、国の重要美術品『三浦屋店頭図』などの絵馬１０点や棟方志功の版画などの絵画１００点なども収蔵展示しているそうである。（写真は聖観音像、三浦屋店頭図の絵馬、棟方志功の版画---いずれも北向観音・常楽寺ホームページより転載）

(以下次号)　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

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