奈良6

奈良平城京跡から飛鳥へ (６)
唐招提寺・興福寺　

イバイチの
旅のつれづれ

６、唐招提寺

　薬師寺から唐招提寺へは700mくらいの距離だが、この３日間徒歩とサイクリングが殆どだったので疲れてきた。大きな寺院巡りは車でちょっとと云うわけにはいかず、自分の足が頼りである。南大門から入る。この寺では薬師寺のような中門が失われたので、南大門を入るとそのまま正面に広い金堂が望める。

　唐招提寺金堂(国宝)は平成１２年（2000）１月から昨平成２１年（2009）１０月まで丸１０年掛かって平成大修理が終わったばかりである。寺院の解体修理は外見は元のままであり、１０年掛かってどこが新しくなったのか分からないので、屋根裏の補強材を追加した模型や写真などが講堂(国宝)に展示してある。

　唐招提寺は御承知のように鑑真(がんじん)和上が創建した寺院である。鑑真は中国から渡日に５回失敗し、盲目になったが６度目の航海で天平勝宝５年（753）についに来日された。その生涯は井上靖の｢天平の甍（いらか）」で良く知られたところである。

　唐招提寺創建は天平宝字３年（759）で、翌天平宝字４年（760）平城宮の東朝集殿という建物を朝廷より賜り講堂を造営した。金堂は鑑真和上が亡くなった平宝字７年（763）の後、７８０年から８００年頃に建立され、大同５年（810）に五重塔の建立を以て伽藍が完成したとの記録がある。五重塔は江戸時代に落雷によって焼失したが、講堂、金堂は奈良時代の建築物がそのまま残り国宝になっている。

　金堂には中央に本尊・盧舎那仏坐像、右に薬師如来立像、左に千手観音立像（いずれも国宝）が並んでいる。この配置は他の寺院には無く、また三尊像と云うにはバランスが悪くそれぞれが本尊といった感じである。一説には鑑真和上が始められた僧侶に戒律を授ける授戒を行う戒壇が東大寺、下野薬師寺、筑紫大宰府の観世音寺の３寺院に置かれ、天下三戒壇と云われたが、鑑真和上が亡くなった後金堂が竣工したので、鑑真の遺徳を偲ぶために授戒のシンボルとして安置したと云われている。

　今回の平成大修理では伽藍ばかりでなく、三尊像も初めて外部で解体修理がおこなわれた。講堂には千手観音の腕を取り外した写真も展示してあったが、腕の数を目算したところ本当に1000本近くあるのに驚いた。後から調べたら大脇手42本小脇手911本合せて953本とのことで最初は1000本あったが地震で観音像が倒れたりしたため亡失したと考えられている。興福寺の本尊である千手観音を始め普通は42本の腕しか無く、実際に1000本の腕がある観音像は他には河内の葛井寺にあるだけだそうである。

　金堂には本尊の手前左右にある梵天立像と帝釈天立像及び須弥壇の四隅に置かれている持国天、増長天、広目天、多門天の四天王立像の全てが奈良時代の作で国宝であり、建物と合わせて奈良天平の雰囲気に浸れる。

　金堂の後ろには講堂がある。平城宮の建物を移築した当寺院最古の建物で国宝に指定されており、本尊は弥勒如来像（重文）である。手前右手に建つ鼓楼は鎌倉時代の作であり、これも国宝に指定されている。

　今回初めて当寺院の右手奥にある鑑真和上御廟に詣でた。苔むした林の続く奥の静寂に包まれた御廟を拝し、遥かに天平の昔を偲んだ。

　講堂の右奥に芭蕉が鑑真和上像を拝した時の句碑があった。
「若葉して　御目の雫　拭ばや」の句である。「奥の細道漫遊紀行」の作者としては見逃すわけにはいかない句碑である。

（H22-10-1４訪）

7、興福寺

 　近鉄西ノ京駅に戻り､近鉄奈良駅に行く。お目当ては興福寺の阿修羅像だが、まず順路として猿沢の池から五重塔を眺める。ここから52段の階段を上がって行くのが興福寺の正面からの入場になる。上りきったところの左手に南大門跡があり、右手には奈良随一の高さ(50.1m）を誇る国宝五重塔が聳えている。

　この塔は室町時代の再建だが、明治初めの廃仏毀釈のあらしの時には危うく取り壊されそうになった。司馬遼太郎の「街道を行く―奈良散歩―」によると、興福寺の僧たちは春日大社の神職にされ興福寺は廃寺同然になった。そして五重塔がわずか25円で売りに出されたという。買主は商人だったが、最初薪にしようと思った。しかし壊すのに労力が懸り過ぎるので次に金目の金具をはぎ取ろうとした。しかしその作業も大変なのでついには焼いてしまおうとした。だが付近の町屋から天にも昇るような巨大な炎をあげられては大変だと抗議され、結局商人は買うのをやめたというのである。おかげでこの五重塔は現在も奈良のシンボルとして存在しているのである。

　五重塔の隣に同じく国宝の東金堂がある。内陣には本尊の薬師三尊（重文）や文殊菩薩像（国宝）などが安置されているそうだが中には入らなかった。興福寺には３棟の金堂があったが現存しているのは室町時代に再建された東金堂だけである。興福寺の中心になる中金堂は今年（平成22年）立柱式を行った。今後平成２７年（2015）までに5年かけて再建する計画である。現在は同じ法相宗の薬師寺から旧金堂を移築して仮金堂としており、本尊の釈迦如来像（重文）などはそこに安置されている。(写真は五重塔と東金堂）

　いよいよ阿修羅像がある国宝館に行く。昨平成21年（2009）に東京と九州福岡で開催された｢国宝　阿修羅展｣では130日で190万人もの多数の来場者を集めた。今年（平成22年）は仏像は全て興福寺に戻り、リニュアールオープンした国宝館に展示されている。

　新しい国宝館の展示はガラスケースを取り除き、国宝八部衆像8体と国宝十大弟子像6体が向き合った形で同時に展示されるようになった。両者とも広いスペースに並んで安置されており、手がとどくくらいの近距離で拝観できる。中でも阿修羅像は、八部衆の中央に置かれていて離れた場所にいる人からでも良く見えるようになったが、矢張りその前は一番人だかりがしていた。八部衆の内、頭胸部しかない五部淨像は阿修羅像以上に憂愁を帯びて印象的な顔立ちをしている。また5m以上の高さのある大きな千手観音立像も左右正面から良く拝観できるようになり、唐招提寺の千手観音との違いも良く分かった。(写真は国宝館のチラシ表面、裏面、裏面の一部）
　他にも金剛力士像などの国宝、重文の見応えのある仏像を多く拝しすっかり疲れてしまった。ひと休みした後、更に国宝の建物である北円堂（鎌倉時代に再建）、重文の南円堂（江戸時代初期に再建）、国宝の三重塔（鎌倉時代に再建）の外観だけを拝観し興福寺を後にした。

　新薬師寺、入江泰吉の写真がある奈良市写真記念館にも行きたかったのだが、それはまたの機会（があるかどうか判らないが）にして近鉄奈良駅から京都に、そして新幹線「のぞみ」、特急「ひたち」で水戸に帰着した。今回は７７才の年寄りには強行軍過ぎたきらいがあったが、夜はホテル周辺の居酒屋で土地の人と話したり、薬師寺の坊さんが来て一緒に写真を撮ったりしたり、予定した以外の見所にも多く行け、楽しく実り多い旅だった。

（H22-10-11～10-14訪）
　
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