山陽路2

山陽路点描 (２）安芸の宮島②

イバイチの
旅のつれづれ

３．安芸の宮島（２）

　翌朝、厳島神社の見学に行く。始めに厳島神社の東側にある坂道を上がり五重塔を見る。行く途中道の真ん中を歩いている鹿に逢う。ここの鹿は人に慣れ過ぎていて車が来ても逃げることはしないので、はねられて死ぬことが多いそうである。五重塔は１,４０７年（応永１４年）の室町時代の建立ということで国の重要文化財に指定されている。

　その隣に同じく国の重文に指定されている千畳閣（大経堂、現在の名称は豊国神社）がある。修学旅行の子供たちがガイドの説明に耳を傾けている。ここは豊臣秀吉が安国寺恵瓊（えけい）に命じて建立させたが秀吉の死によって未完のままに終わった。しかしその広壮さから千畳閣といわれるようになった建物である。ここからは眺めが良く宮島と廿日市を結ぶ連絡船が良く見える。

　坂を下り厳島神社に行く。厳島神社は背後にそびえる天然記念物に指定されている弥山（みせん）原始林と共に１９９６年（平成８年）に世界遺産に登録されたのは御承知の方も多いと思う。神社の創建は推古元年（593）と云われているが現在の様な海上に社殿を建てるユニークな伽藍配置は仁安3年（1168）に平清盛が造営したものである。朱塗の神社本殿は客（まろうど）神社本殿、東西の廻り回廊などと共に平安時代の寝殿造り様式を残すものとして国宝に指定されている。

　昨夜ライトアップされていた大鳥居（重文）や、朝靄に包まれた弥山（みせん）をバックにした厳島神社の社殿が見える。神社の本社本殿から大鳥居に向かって桟橋が突き出た感じの、常夜灯の燈篭が置かれた場所があるが、昔は参拝の舟を着けた場所で火焼前（ひたさき）という名である。朱色に包まれた厳島神社を眺めながら拝観受付に進む。拝観料は３００円と格安である。修学旅行の時期のせいか沢山の中高生がひしめいている。

　最初に参観するのが国宝の客（まろうど）神社で、東回廊を挟んで右側に祓所という建物があり、左側に客神社本殿、拝殿がある。拝殿の前で巫女さんが拝礼をしていた。回廊を進むと客神社本殿の左側に五重塔が良く見える鏡の池という場所がある。潮が引くと手鏡の形をした池が見えるそうである。(写真は客神社祓所の一部と本社拝殿、拝礼をする巫女さん、客神社本殿の左側面と鏡の池付近）

　回廊を右折して大鳥居を眺めながら進むと本社拝殿の前に出る。現在の本殿は元亀2年（1571）に毛利元就によって改築されたものである。高校生たちも神妙に拝礼していた。

　火焼前（ひたさき）近くから銅の大燈篭や大鳥居を眺めて西回廊に出るとこれも重文の能舞台が見える。毛利元就が京都から観世太夫を招いた時に造られたという。

　厳島神社は平家没落の後も源氏、足利をはじめとする時の権力者の崇敬を受けていたが、戦国時代には衰退した。その後毛利元就が厳島の戦いで陶晴賢を奇襲で破り中国の覇権を収めたのちは、その被護によって再び隆盛した。元就は大掛かりな社殿の修復を行っており、豊臣秀吉も九州遠征のとき参拝し千畳閣（大経堂）の建立を指示している。

　厳島神社を出ると直ぐ右に厳島神社宝物館がある。ホテルで来年の大河ドラマが平清盛なので現在リニューアル中で見られないかもしれないと聞いていたので、係の人に聞くと、それはここでは無く歴史民俗資料館が来年1月14日から平清盛館としてリニューアルオープンするので改修工事をしているとのことで、宝物館は平常通りだということだった。

この宝物館には国宝の平家納経がある。これは平清盛の発願により、平家一門の人々がその繁栄を願って経典を筆写し厳島神社に奉納したもので、法華経３０巻、阿弥陀経１巻、般若心経１巻、清盛の願文１巻の計３３巻から成り、願文には清盛、重盛、頼盛、教盛と重臣たちが１巻づつ書写したと記されているという。

　各巻の表紙と見返しには極彩色の大和絵が描かれ、料紙は雁皮紙で金銀の箔や砂子を撒き、金銀泥、岩絵具で絵や模様が描かれており、その上に墨、緑青、金泥で文字が書かれていて非常に絢爛豪華なものである。経巻は「金銀荘雲竜文」という国宝の銅製経箱に収められ奉納された。
　宝物館では春秋の一時期その一部を公開しているが、レプリカは常時展示されている。それを見ると料紙はもちろん立派だが書写した文字も立派なものが多い、写し間違えたらどうするのかと思いながら見ていた。また中にはあまり達筆では無いものもあって安心した。

　宝物館の前に大願寺がある。この寺は代々厳島神社の造営や修理を担当してきた。本尊は薬師如来座像（重塔文化財）だが、明治初年の神仏分離令により千畳閣から釈迦如来座像と脇侍（いずれも重要文化財）が、五重塔から釈迦如来三尊像が、また多宝塔からも薬師如来像が移され収蔵されている。更に同じ時に厳島神社から移された弁財天があり、厳島弁天と江の島弁天、竹生島弁天が日本３大弁天と云われている。境内には伊藤博文が植えたといわれる根本から９本の幹が伸びている松が知られている。ここにも修学旅行の生徒たちが沢山居た。（写真は大願寺本堂、本堂前の９本の幹がある松）

　宝物館の少し先から多宝塔に上る階段がある。多宝塔は高台の上にあり戦国時代の大永３年（1523）の創建で重要文化財に指定されている。厳島の戦いのとき陶晴賢の本陣があったところだそうである。宮島多宝塔の本尊である薬師如来像は神仏分離令により大願寺に移されているが建物は下層が方形、上層が円形の美しい塔である。（写真は宝物館とその右上方に見える多宝塔、及び左側面からの多宝塔）
　
　多宝塔をぐるっと回り丘の先端に行くと眼下に大鳥居が見える。更に右手に目を移すと厳島神社の全景から千畳閣、五重塔まで見渡せる。手前にある木々の葉が色付き始め初秋の風情である。この多宝塔周辺にもにも鹿がいてのんびり草を食べていた。

　多宝塔からあせび歩道という自然散策路を行くと、大聖院という弘法大師空海が開基したという宮島最古の歴史がある寺院に出る。この寺は厳島神社の別当寺として祭祀を司さどり宮島全体の寺社を支配していた。

　別当寺というのは神仏習合の時代に神前で読経するなどの神社の祭祀を仏式で行う者を別当と呼び、別当の居る寺を別当寺と云って神社の宮司もその下に置かれており別当は神社で最も権力があった。神仏分離令は神道を日本の宗教の頂点に据える思想だったので神仏混淆は絶対に排除しなくてはならなかったのである。

　当初の計画では弥山にロープウエイで行く筈だったが、スケジュールはぎりぎりの時間で組まれていたため、若い時はともかく７８才には荷が重いと思い、弥山は諦めて宿に戻り早めにチェックアウトした。桟橋まで宿の車で送って貰い、広島で穴子弁当を買い昨日の牡蠣と合わせてこの地方の２大代表的料理を食べることが出来、次の目的地倉敷に向かった。
（以下次号）

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