笠島

　「おくのほそ道」には　「鐙摺、白石の城を過、笠島の郡に入れば、藤中将実方の塚はいづくのほどならんと、人にとへば、『是より遙右に見ゆる山際の里をみのわ・笠島と云、道祖神の社、かた見の薄、今にあり』と教ゆ。」　と記されている。「武隈」の段で述べたように芭蕉は「おくのほそ道」全体の構成を考えて「武隈」の前に「笠島」でのことを記しているのである。

　それはさておき、「武隈の松」から、旧街道を名取市の笠島に向かった。この笠島の里には藤中将実方の墓がある。藤原実方は平安中期の歌人で、能因法師や和泉式部などと共に中古三十六歌仙 (平安中期の三十六歌仙の後、「後六々撰」に載せられた三十六人の歌人）　の一人に数えられていて、その歌は拾遺集や小倉百人一首などにも選ばれている。

　実方は陸奥守に任ぜられ（左遷されたとも云われる）、赴任して数年後、この笠島にある道祖神の前を下馬せずに通ろうとして神罰を受け、落馬して命を落としたとの言い伝えがある。旧街道（県道３９号線）が東北新幹線と交差するトンネルの上あたりに猿田彦を祭神とする笠島道祖神社がある。ここが神罰を受けた神社ということで、赤い鳥居と由緒が書かれた立派な石碑がある。

　道祖神社から旧街道を仙台方面に５００メートルほど行くと「中将藤原実方朝臣の墓」と書かれた大きな標柱があり、細道を曲がると駐車場がある。さらに１００メートルほど歩くと薄暗い林の中に玉垣を巡らせた塚がある。墓の後方に実方の歌「桜狩り　雨は降りきぬ同じくは　濡るとも花のかげにかくれん」を刻んだ大きな碑があり、塚の手前には「朽ちもせぬ　其名ばかりを留置て　かれののすすきかたみにぞ見る」という西行が詠んだ歌碑がある。
（写真左は前方が西行の歌碑、後方左上方の柵の中が実方の歌碑と塚）

　参道の上がり口には、平成元年に立てられた　「笠嶋は　移つこ皐月乃　ぬかり道」　の自然石に彫られた芭蕉句碑と、その碑を建立したという市長の名ばかりが大きい解説の碑がある。其の後方には西行の歌にある「かたみのすすき」として、３株の薄と仙台の俳人松洞馬年の「笠島は　あすの草鞋の　ぬぎ処」という趣のある句碑が建てられている。

　「おくのほそ道」には最初の文章の後、　「此比（このごろ）の五月雨に道いとあしく、身つかれ侍れば、よそながら眺やりて過るに、蓑輪・笠島も五月雨の折に触れたりと、　笠島は　いづこさ月の　ぬかり道　　岩沼に宿る。」　と体調が悪かったので五月雨の中で墓の在り処を探し求めて悪路をたどるのを諦め、遥かな山際の里を眺めて、蓑輪･笠嶋という地名は五月雨に合っていると思いながら一句詠んだ。と記されている。
　 (H14-5-6訪)

注１）　写真をクリックすると大きくなります。
注２）　青字は「おくのほそ道」にある句です。
注３）　緑字は「おくのほそ道」の文章です。

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