歓喜天

熊谷の歓喜院聖天堂 (その２）

イバイチの
旅のつれづれ

　貴惣門からの参道をそのまま進むと中門がある。江戸時代初期の火災で唯一焼け残った聖天山最古の建物である。更に進むと仁王門がある。現在の聖天堂が建立される１００年前の万治元年（1658）の創建だったが台風で倒壊し、明治２７年に再建されたものである。仁王門の脇に聖天山の縁起などを書いた案内板がある。（写真は中門、仁王門、縁起を書いた案内版）

　仁王門の先に今回国宝に指定された本殿がある。正面の拝殿から相の間と奥殿が続く廟形式権現造りというのだそうである。
　拝殿間近に行くと屋根以外の木造の部分が彩色され、欄間などにある彫刻は鮮やかに漆塗りの細かい彩色が成されている。正面上部にあるのは「琴棋書画」の彫刻で、左右に掛軸を掛ける童子と本を読み、書を書く童子を配し、中央に琴を弾き、囲碁を楽しむ大人が居る。その下部は珠を持った竜の彫刻である。

　竜の彫刻の左右の欄間には阿吽の表情の虎が置かれている。その両側に居る邪鬼も同じ表情ではない。拝殿の正面庇裏の上部には花の装飾彫刻間があるが、花の間から猿が首をのぞかせているのがお判り頂けるだろうか。

　本殿内部の拝観は出来ないが、拝殿の後にある奥殿外壁の素晴らしい彫刻が拝観できる。拝殿の向かって左側（南面）から入場するようになっており参観料は７００円である。入口の前にあるテントの中に団体客が大勢居て、めぬまボランティア「阿うんの会」の人が概要を説明していた。暫らく待たされた後、同じように「阿うんの会」の人の説明を聞いて入場し、透塀（玉垣）の内側にある奥殿外側の壁面に彫られた個々の彫刻について説明を受けながら拝観した。（写真は入場券の一部で南西側からの奥殿外観）

　南壁面の大羽目で最初にあるのが左甚五郎の作との伝承がある鷲と猿の２面の彫刻である。最初の面には鷲が猿を捕えているような図が示されているが、これは激流に落ちて溺れそうになった猿を鷲が助けた所で、鷲は聖天様を表し、煩悩にあくせくもがいている人間（猿）を聖天様が救う場面を現しているという。復元修復前の鷲と猿図の一部を熊谷市ホームページからコピーさせて貰った。修復前は全てこの様な状況だったものを色彩豊かに漆塗りで復元するには８年の歳月と１３億５千万の費用がかかったというのも頷ける思いがする。

　次に鶴亀と遊ぶ道士と若者の大羽目彫刻がある。鷲と猿の緊迫した景観から一転して沢山の花が咲き小川が流れ、鶴は一羽が空を舞い、一羽は器から餌を啄ばんでいる。亀は岩の上で甲羅を干し、高士には鹿が寄り添っており、うららかでゆっくりと流れる時を楽しむ風情がある。　いずれも微細に彫られた彫刻が多くの鮮やかな色彩で染められており、また中央にある柱や上下左右の枠に一面に彫られた装飾彫刻も精巧なものであり、素晴らしいの一語に尽きる。

　また欄干の下部にあるメインの面の半分以下位の小羽目には童子が大勢で遊ぶ様子が花木などの装飾も加えて、これもまた精巧に彫られ細かく彩色されている。また馬の玩具で遊んだり、闘鶏らしきものをしていたり、子供たちの遊ぶ姿が生き生きと描かれている。更に角々には精巧な竜の彫り物や唐獅子が取り付けられており、それも素晴らしい出来栄えである。

　上部に目をやると屋根の下の唐破風には竜や象、獅子などの装飾彫刻や、鳳凰、五色の雲、花などを描いた彫刻画で覆われている。鳳凰はこの南面のものと北面のものとで１対になっているが、作者が違うそうで、熊谷市ホームページには作者名やその作風の違いが細かく解説されている。

　唐破風の下には故事に則った場面の彫刻がある。前の写真は「三聖吸酸」と言い、孔子、釈迦、老子の三聖人が酢をなめている様子を現しており、酢が酸っぱいと云う事実は皆同じであり、儒教、仏教、道教など宗教や思想が異なっていても真理は一つであるという「三教一致」を意味しているという（熊谷市ホームページより）。後の写真は「司馬温公の瓶割(かめわり)」で中国北宋時代の学者、政治家の司馬光という人が、幼い時友達が甕に落ちて溺れかかった時、その高価な甕を割って助けたという逸話があり、いくら高価なものでも人の命には代えられないことを表している。

　拝殿の裏側にあたる西壁面の大羽目を屋根を含めて透塀（玉垣）の外側から眺めるとこの奥殿の素晴らしさが良くわかる。屋根の破風の色彩豊かな装飾。その下の唐破風も多くの彫刻で絢爛に埋め尽くされている。その下の大羽目にはそれこそ豪華な、目の覚めるような色とりどりな色彩で３面の絵が彫られている。国宝、更に埼玉日光の通称に恥じない日光東照宮を上回るような出来栄えである。

　最初の大羽目彫刻の図柄は七福神であろうか７人の人物が彫られており、大きな鯛を担いで米俵の上で踊っているのは大黒様なのかもしれない。中央の面は布袋、恵比寿、大黒天の福神三人による囲碁遊びで、これを記念して今年（平成２４年）５月に本因坊戦第２局目がこの妻沼聖天山の本坊書院で行われた、と頂いた入場券兼解説書に書いてあった。最後の大羽目面には宝物でも入っていそうな大きな袋がこれも七福神を表しているような７人の人物と共に彫り込まれている。下の小羽目には凧上げで遊ぶ童子たち、水辺で魚を捕まえようとしている童子たち、親子の３組が踊っている図の３面が彫られている。

　西壁面から北壁面に移る。欄干の下の小羽目彫刻の上部に小さな猿の彫刻がアクセサリーのように置かれている。こちらの大羽目壁面では女性二人が挟み将棋をしており、その間で観戦しているのは鍾馗か閻魔大王か？傍らには鬼が座っていて、桃を捧げ持った女性と琵琶であろうか布に包まれた楽器状の品を担ぎ持っている女性を手招きしている図である。これにもいわく因縁があるのだろうが説明はなかった。下の小羽目壁面には獅子舞、雪だるまであろうか？白く丸いものに綱を結び引く童子たち、そして相撲を取る童子たちが彫られている。（最初の写真は西北面の角からのもの）

　ここは埼玉日光とも呼ばれているそうだが、日光東照宮のような大規模な建物は、そのすべて鑑賞するには多くの日数が必要であり、また根気が無くては見きれない。この妻沼聖天山は一日かければゆっくり鑑賞出来、また混み合うことも少なく、好きなところをじっくり眺めることが出来る。昨平成２３年６月に創建当時の華麗なる色彩が復元されてからまだ１年しか経っていないが、風雨にさらされているので日々色褪せて行く。真新しい復元された状態を観るためには早めに鑑賞することをお薦めする。

　なお熊谷市ホームページには妻沼聖天山について的確な紹介や説明があり、復元施工を行った㈱小西美術工芸社の歓喜院聖天堂の３６０度パノラマ映像にもリンクしているので必見である。

（H24-6-25訪）

　
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