下北4

下北・花巻紀行 (４) 花巻①

イバイチの
旅のつれづれ

５．宮沢賢治の故郷「花巻」

　下北駅を１１時５６分発の快速「しもきた」に乗り、八戸で東北新幹線「はやて」に乗り換えた。更に盛岡で「やまびこ」に乗り換えて、東北新幹線新花巻駅に着いたのは１５時１８分だった。花巻は宮沢賢治の故郷であり、花巻の観光について調べると豊富な温泉の事と宮沢賢治関連の情報が沢山出てくる。花巻に来たら賢治の事跡を見聞せざるを得ないのである。また花巻には成島兜跋（とばつ）毘沙門天という欅一本彫では日本一大きい毘沙門天立像があるのでそれもぜひ見たいと思ったのである。

　新花巻駅は当初の新幹線の計画には入っていなかったが、地元が費用の負担をするので是非造ってほしいと要望して出来た駅で、東北本線の花巻駅とは大分離れた場所にある。駅前には賢治の作品の「セロ弾きゴ―シュ」などのレリーフが飾ってあり、賢治の街であることをアッピールしている。ここから花巻温泉行きの送迎バスがあり、３０分ほどで旅館に到着する。

　花巻温泉には３つの旅館が並んでいるが、同じグループが経営しており全体が連絡通路で繋がっていて、どの旅館の温泉にも入れる様になっている。３館合計の収容人員は１,７００名以上であり、巨大旅館グループなのだが、震災の影響で団体客が激減しているらしく、韓国語、中国語の案内標識が多いのに外国人はほとんど見当たらない。また節電協力のために照明が落としてあるのでうら寂しい感じがする。広い和室に一人で泊まったので尚更である、何時までもこんな状態が続いたら大変だと思ってしまう。（写真は宿泊した紅葉館）

　翌朝早く送迎バスの出発する前に旅館の前にあるバラ園を見学した。宿泊客は２００円の割引があり入園料は６００円である。このバラ園は１９６０年開園で５０年以上の歴史がある。丘の斜面に造られたバラ園で園内には噴水のあるベンチや宮沢賢治が設計した日時計花壇や後ろのバラが見えるように透明なアクリル板に刻まれた「冗語」という賢治の詩碑もある。

　良く手入れされていて４５０種、６,０００株あるというバラが綺麗に咲いていた。最上部の展望台の先には小佐野賢治の胸像がひっそりと置かれており、バラ園を含む花巻温泉は国際興業グループの経営だと改めて感じた。小佐野賢治は花巻を宝塚に匹敵するリゾート地にしようとして花巻温泉買収後、花巻空港、東北自動車道、東北新幹線の建設に大きな影響力を及ぼしたといわれている。新花巻駅行きの送迎バスはほぼ満員だった。しかし個人のお客は来るが団体客、特に海外からの客が来ないのが痛手である。

　新花巻駅に１０時前に着き駅レンタカーを借りた。まだ１,０００ｋｍも走っていないトヨタヴィッツの新車で半日乗って４,０００円である。今日訪問予定の宮沢賢治関連の施設や市街地から離れた所にある成島兜跋（とばつ）毘沙門天などを廻るのにはレンタカーが効率が良い。

　はじめに駅に近い宮沢賢治記念館に行く。賢治は明治２９年（1896）に花巻市で生まれた。明治の三陸大津波があった年である。亡くなったのは昭和８年（1933）で、これまた三陸大津波があった年だった。賢治は「銀河鉄道の夜」「風の又三郎」「セロ弾きゴ―シュ」などの童話や「雨ニモマケズ」などの詩が知られているが、賢治は盛岡中学から盛岡高等農林（現在の盛岡大学農学部）出身で、花巻農学校教諭をしたことから農民に対し稲作や肥料について農業指導を行っており、また熱心な法華経の信者でもあった。宮沢賢治記念館にはその経歴や童話の原稿、愛用のチェロなどが展示されている。（写真は記念館入口、ホール前、よだかの星彫刻碑）

　近くに宮沢賢治イーハトーブ館がある。イーハトーブは賢治の造語で、岩手（いはて）をもじって付けたといわれ、イーハトーブ＝岩手が定説になっている。イーハトーブ館は展示場、ホール、図書館などがあり賢治についてより深く学びたい人や研究者の集まる場所である。展示場ではイーハトーブファンタジーという鉄による賢治作品彫刻展というのを展示していた。向かって右側の写真は銀河鉄道の彫刻である。

　賢治記念館、イーハトーブ館と国道を挟んで宮沢賢治童話村がある。賢治記念館と賢治童話村との２館共通入館券５５０円という割引券がありそれで入った。（イーハトーブ館は無料である）

(写真は童話村入口、ステーション広場から見た賢治の教室（左奥）、賢治の学校入口）

　「銀河ステーション」という入り口を入ると広い敷地内に「賢治の学校」という建物と「賢治の教室」というログハウス群があり賢治の童話に出てくる風景や動植物を見ることが出来る。近くの学校の小学生がたくさん来ていた。　（写真はファンタジックホール、大地の部屋、植物の教室）

　次に「雨ニモマケズ」の詩碑のある場所に行く。新花巻駅から７kmあり、ナビが無いとなかなか分からない場所だ。碑文は高村光太郎の書で、「雨ニモマケズ」の後半の「野原ノ松ノ林ノ蔭ノ　小サナ萱ブキノ小屋ニヰテ　------」から後の詩が刻まれている。この場所は賢治が設立した羅須地人協会があった場所である。賢治はここで農作業を実践しながら若い農民たちに農業技術などを教えていた。

　協会の建物は宮沢家の別宅を改造したものだが、現在は花巻農業高校の敷地内に移築され「羅須地人協会賢治先生の家」として公開されている。レンタカーがあるので、「雨ニモマケズ」の詩碑から１４km離れている花巻空港近くのその場所まで気軽に行ける。羅須地人協会の敷地には賢治生誕１１０年を記念して平成１８年に創られた賢治の像が置かれている。花巻農学校を退職する少し前にベートーベンの真似をしたポーズで、農学校実習田で写した写真をモデルにしたものだそうである。

　賢治は同じ盛岡中学の先輩石川啄木の１０才年下である。啄木が亡くなったのは弱冠２６才だったが賢治も３７才の若さで亡くなっている。若くても自分の信ずる道を精一杯生きることで後世に大きな影響を及ぼせることを、この岩手県出身の二人が実証しているのである。
(H23-6-29訪）

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