秋田 1

'13 青森龍飛・秋田紀行 (１) 龍飛岬①

イバイチの
旅のつれづれ

　青森龍飛・秋田紀行
　　（平成２５年１２月４日～１２月７日）

　　①１２月４日
　　新青森駅―蟹田―龍飛館―龍飛崎燈台
　　―青森駅―ハイパーホテルズパサージュ（泊）
　　　　（ＪＲびゅうばす）
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１．はじめに　

　平成２４年６月に、ＪＲ東日本が売り出した大人の休日倶楽部パス（東北スペシャル）４日間乗り放題１３,０００円というパスが発売されたので、それを利用して黒石・竜飛岬・盛岡への旅を計画した。しかし申し込んだ時には竜飛岬に行くＪＲの「びゅうばす」が全て満員になっていたため、あえ無く計画を断念してしまった。その後盛岡には、その年の９月発売の大人の休日倶楽部パスで三陸海岸も含めて行くことが出来た。
（’１２盛岡・北三陸紀行）参照

　竜飛岬にはなかなか行く機会がなかったが、今回、大人の休日倶楽部パス（東日本・北陸）４日間乗り放題１７,０００円が発売されたので、それを利用して竜飛岬から秋田方面への旅行を計画した。前回に懲りて竜飛岬に行く「びゅうばす」に早めに予約を入れた。最初は１１月下旬に行く積りだったが、竜飛岬行の「びゅうばす」１２月１日～８日間しか運行しないというので、日程を調整して１２月４日のバスを予約した。（写真は使用した大人の休日倶楽部パス）

　このバスは新青森駅を１１時２０分に出発するので、水戸駅５時４５分発という早朝の特急で、上野から東北新幹線に乗ることになった。また秋田は今年（２０１３）９月にオープンした秋田県立美術館で藤田嗣治の「秋田の行事」という２０ｍの幅のある壁画が展示されているというので、それを見たいと思ったことと、横手市増田町という所に、家の中に蔵がある「内蔵」というものが多くあって、国の重要伝統的建築物群保存地区になっていると知ったので、それも見ようと思ったのである。この季節は東北の日本海側は雨か雪の日が多いというので、レインシューズを履いて行くことにした。

　青森から秋田には当初、五能線の「リゾートしらかみ」で行き、十二湖付近を歩く積りだったが、白神山地には１１月までしか入れないことを知り、予定を変えて盛岡まで東北新幹線で行き、秋田新幹線に乗り換える行程にした。シーズンオフの旅行で、有名観光地に行く時はよく調べないと思わぬことで泣きを見る事が多い。

　さらに調べてみると、秋田県立美術館は１２月５日～６日は展示替え休館という事が分かったので、当初１２月６日に見る積りだったが、休館明けの７日に計画を変更した。ところが、１２月７日は常磐線の橋梁交換のため、上野発１７時以降の常磐線下り特急はすべて運休になることが分かった。という事は秋田を１２時前に離れねばならないことになり、またまた計画変更を余儀なくされ、関ヶ原の戦いの後に水戸から秋田に移封された佐竹氏の築いた久保田城を見るのを諦めた。

　大人の休日倶楽部パスはＪＲの閑散期に発行されるので、観光には不便な場合が多い。しかし通常の半値以下の料金でＪＲが利用でき、特急などの指定券も６回分付いていて臨時の「びゅうばす」も運行されるので、最近は利用する頻度が多い。

不便な点はネットやびゅう窓口で良く確かめることが必要になる。また、秋田では１１月に降雪があったため、日程に入れていた男鹿半島めぐりをレンタカーにするかバスで行くか最後まで迷ったが、現地の天気予報状況を見定め、出発の２日前にレンタカーの予約をした。

２．青森県竜飛岬①

　平成２５年１２月４日、水戸発朝５時４５分の特急「フレッシュひたち」で上野まで行き、東北新幹線「はやて」で新青森に１１時０８分に着く。隣の座席には中年の女性が座り、途中話しながら行く。その女性は、生まれは青森だが住まいは東京の町田で朝４時半に家を出て五所川原から金木の先まで所用があって行くのだという。

　東北では隣の席の人と気軽に話が出来る事が多いので楽しい。これが東京から西に行くと、話し掛けてもまともに返事が返ってこないので退屈を持て余す事が多い。隣の席の人との話の内容は津軽平野では長いもやゴボウなどの土の中で育つ野菜が美味しいとか、旦那は家で木工をやるのが好きで、出不精なのでなかなか一緒に出かけられないなどの他愛もない世間話だが、それが楽しくて時を過ごせた。

　話のなかで「青森から一旦弘前近くの川部まで下ってまた金木の方まで上がって来るのかね、青森から真っ直ぐ金木に来る道路は無いのかねえ」と言われて「津軽半島にも山脈があってそこが通れないんですよ」と言ったけれど、恐らく通る人が少なくて採算が合わないからだろうとは言えなかった。

　新青森駅から１０分ほどの待ち時間で、１１時２０分に「冬の竜飛岬号」というびゅうばすが出発した。乗客は２３名で他に運転手とガイドである。快晴で暖かな旅行日和だった。津軽には雪の積もった１月に弘前に、桜の５月初めに弘前から五所川原、金木まで行った事があるがその先は初めてである。（写真は新青森駅東口、駅前のびゅうばす）

　以前、金木の芦野公園に行った時に太宰治の銅像を見た。太宰治は金木の出身である。太宰の小説「津軽」には、最初から第三章までに、外ヶ浜の蟹田、蓬田、平館、今別、三厩（みんまや）から竜飛に行った事が書いてある。五所川原から金木に行った時にもその「津軽」を読んでから行ったのだが、今回も文庫本を持参して暇を見つけて読んでいた。

　以前にも書いたが太宰の小説は最後まで読んだのは、短編の｢走れメロス｣とこの「津軽」だけで、「斜陽」や「人間失格」の様な破滅型の小説は好みでは無く、最後まで読み通せなかったがこの「津軽」だけは３回目の読書である。それだけこの本は小生にとっては魅力のある、読み応えのある小説だと言えるのである。

　バスは国道２８０号線を走り、丁度１２時に蟹田に到着した。ここで昼食である。陸奥湾に面している蟹田港からは下北半島の脇野沢港との間に下北汽船のフェリーが運航している。片道１１２０円で約１時間の船旅だそうだが、現在は１１月中旬から翌年４月中旬までの冬期運休で欠航中である。（写真はＪＲ蟹田駅、蟹田港｛遠景に下北半島の山々が見える｝、下北汽船のフェリー）

　平成の始めに司馬遼太郎が「街道を行く」の最後の頃の四十一巻目に「北のまほろば」という青森県についての紀行文を書いた。その中に太宰治の「津軽」の事が好意的に書かれており、また「津軽」からの引用が多数ある。蟹田でも友人の奥さんが蟹を?いている描写が引用されており、その先にある義経寺でも引用がある。更に竜飛岬にも同じく引用があり、太宰の生家がある金木の話にも長い引用がある。司馬遼太郎も参考書か案内書の様に良く読んでいたようである。

　ここから海岸線に沿って平館方面に行く国道と別れてＪＲの津軽線に沿った山越えの県道を今別に行く。今別からは国道３３９号線で三厩から竜飛岬方面に行く。この付近は平成２７年に新青森から新函館まで新幹線が延長されるのでその工事が進んでいる。

　本州と北海道を結ぶ青函トンネルは昭和６３年（1988）に開通しているが、約５４kmある青函トンネルはその付近を含めて新幹線規格で作ってあるので、新青森～新函館間の約１４９kmは遅れることなく予定通り新幹線が走ることになりそうである。その時は今別付近に奥津軽駅(仮称)が出来るので、竜飛岬に行くにも随分便利になりそうである。

　ＪＲ津軽線の終点である三厩駅を過ぎると直ぐ義経寺がある。三厩は義経北行伝説で義経主従が本州から蝦夷ヶ島（北海道）に渡ったとされる場所である。義経寺の直ぐ下に厩石（まやいし）という３つの岩穴がある。伝説によると義経一行がここにたどり着いたが津軽海峡は荒れ狂って渡る事が出来ない。義経は海岸の岩石の上に身代わりの観音像を置き、波風を鎮め渡海出来るよう祈願した。満願の３日目の払暁に白髪の翁が現れ「三頭の竜馬を与える。これに乗って渡るが良い」と言われ岩穴に行くと三頭の羽のある竜馬がつながれていて、無事蝦夷ヶ島に渡る事が出来た。それ以来この岩を厩石、この地を三厩と呼ぶようになった。とバスガイドが話してくれた。（写真は義経寺の下にある厩石公園、奥に三つの岩穴がある）

　義経寺は、円空仏で知られる円空がこの地を訪れた時にその義経が祈願した話を聞き、観音像を刻んで祀ったことから始まったとされる。太宰治は小説｢津軽｣に友人とこの寺を訪れた時の事を書いている。

　義経寺から２０分ほどで竜飛岬観光案内所の竜飛館に着く。ここは津軽半島最北端の旅館として知られていた旧「奥谷旅館」である。昭和初期から多くの有名人が訪れており、津軽三味線の高橋竹山、版画家の棟方志功、彫刻家の佐藤忠良、写真家の濱谷浩、作家の太宰治などの名が宿帳に書かれている。館内には太宰の部屋というのがあって、小説｢津軽｣に書かれた友人（Ｎこと中村貞次郎）と過ごした部屋を再現してある。（写真は竜飛館パンフレット、太宰の部屋、竜飛館館長と竜飛館入口付近）

　竜飛岬観光案内所竜飛館、旧（奥谷旅館）の前には太宰治文学碑が昭和５０年に建立されている。文学碑には太宰が竜飛の部落に到着した時の印象を記した小説｢津軽｣の一節が刻まれている。その日「奥谷旅館」に泊まった太宰は翌朝寝床の中で、童女が手毬歌を美しい発音で歌っているのを聞いて、中央から蔑視されている本州の北端でその爽やかな歌声を聴いて、たまらない気持になった。と記して小説｢津軽｣の「外ヶ浜」という章が終わるのである。（写真は太宰治文学碑2景、文学碑に刻まれている文章）

　司馬遼太郎は「街道を行く」の「北のまほろば」の中で「竜飛崎」の章に「道は、ここに尽きる。日本じゅうの道という道の束が、やがて一すじの細いみちになって、ここで尽きるのである。」と記しているが、これは明らかに太宰治文学碑の刻まれた一節を意識して書いているのである。また「北のまほろば」の終章は「リンゴの涙」という節なのだが、その最後は小学一年生の詩で締めくくっている。これも前述の小説｢津軽｣の最後の言葉が強く印象に残っていたために、同じ様な結言にしたのではないだろうか。

（以下次号）

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