　平成２４年の大晦日、ＮＨＫＢＳプレミアムで｢本の神様 2012年・ヒット本を総ざらい｣という１時間半の番組を放映した。同じＮＨＫＢＳプレミアムで放映されていた「週刊ブックレビュー」が平成２４年３月末に打ち切りになって以来、久々の読書に関する番組だったので早速録画し、正月にゆっくり見た。

　最初にトーハン調べ年間販売ベストテンが出てきたが、その中には健康やカロリーに関する本が４点（「体脂肪計タニタの社員食堂(正・続)」、「大往生したけりゃ医療とかかわるな」、「実はスゴイ！大人のラジオ体操」，「５０歳を超えても３０代に見える生き方」）あり、創価学会の池田大作著が２点、文芸ものは「舟を編む」のたった１件だけだった。後の３点は「置かれた場所で咲きなさい」（渡辺和子）という人生についての本、「人生がときめく片づけの魔法」というハウツーもの、そして一番売れた「聞く力―心をひらく３５のヒント」（阿川佐和子）という文庫本である。

ベストテンまでを整理すると
　１聞く力
　２置かれた場所で咲きなさい　
　３新人間革命（24）
　４体脂肪計タニタの社員食堂
　　続体脂肪計タニタの社員食堂
　５船を編む　　　　　　　　　
　６大往生したけりゃ医療とかかわるな
　７人生がときめく片づけの魔法
　　人生がときめく片づけの魔法（２）
　８不滅の法
　９実はスゴイ！大人のラジオ体操
10 ５０歳を超えても３０代に見える生き方
　となる。

　出席者は「週刊ブックレビュー」で司会者だった女優の室井滋、作家の夢枕獏、大学教授の斎藤孝、女優の小橋めぐみの４人だが、口々に「文芸本が１冊でも入っていて良かった」と言っていた。小生もこんな番組を見るのはまだ読んでいない小説などに、面白い、読みごたえのある本があるのかを期待しているのだが、たった１点しかない小説の「舟を編む」はすでに読んでいたので、少し場違いな感じがした。

　しかし、本の総合ベストセラーとなると文芸ものはその一部で、実生活に直結した健康・美容・料理などの実用書、男女交際・生き方指南、ビジネスもの、ノンフィクションなど多岐にわたっており、本の形態も単行本、文庫本、コミックから電子本に至るまでいろいろあるのでそれも仕方がないのかとも思う。

　それではと単行本―文芸のベストセラーを見ると第１位は総合で５位に入った「舟を編む」（三浦しをん）だが、２位は「謎解きはディナーのあとで（1）（2）」（東川篤哉）で平成２３年の総合１位の作品であるが、表紙カバーがコミック調で手が出なかった。。

３位は｢恋物語｣(西尾維新)で８位にも同じ作家の｢憑物語｣がランクインしているが若者向きのライトノベル作品の様で食指が動かない。４位は芥川賞を受賞した「共喰い」（田中慎弥）だがあまり読みたい本ではない。

５位は「ナミヤ雑貨店の奇蹟」（東野圭吾）で殺人事件の無いファンタジックな作品で東野圭吾の違う面が出ているという様な評価をされていた。東野圭吾は次の６位にガリレオ（７）「虚像の道化師」、ガリレオ（８）「禁断の魔術」が併せて入っている。このガリレオシリーズは短編集で、それぞれ４話ずつで構成され、その幾つかは映画化されているそうである。東野圭吾の本は公立図書館では何時行っても無いので、「容疑者Ｘの献身」のあと｢流星の絆｣しか読んでおらず、あまり云々する資格は無い。

　７位は「神様のカルテ」（夏川草介）で平成２３年文芸のベストセラーでもランクインしている。８位は｢憑物語｣(西尾維新)。９位は「ジェノサイト」（高野和明）。平成２３年３月に発売され、平成２４年に日本推理作家協会賞受賞により売り上げが急増したそうである。

１０位は「蜩（ひぐらし）ノ記」（葉室麟）で平成２４年の直木賞受賞作である。この作品は受賞前年の平成２３年１２月に読んだ。葉室麟の作品は平成２１年に「秋月記」「銀漢の賦」を読んで以来１５冊ほど読んでいる。その中では「いのちなりけり」（平成２２年８月発行）が印象に残っている。

　こう書いてみるとベストセラーでも読みたい本はあまり無く、また是非読みたい本はちゃんと読んでいたようである。出席者の夢枕獏が自分だけではどうしても読む本が偏ってしまうので、いろんなジャンルの人と本の話をするのは新しい発見があり未知の本を読むきっかけにもなるので良かったと言っていたが、小生も同感である。

　平成２４年の小生の読んだ本は最後に再読した「人間の絆（上・下）」を除き７８冊だった。すべて日本の作家ばかりである。海外のものも読みたいが、公立図書館のものを読むのが大部分なので、読みたい本が見つからないことが多いことと、あっても気楽に読めないためなのだろう。

　一応、心に残った５冊を読んだ順序で挙げて見る。

１．「いのちなりけり」（葉室麟）

　前述したように葉室麟の作品はだいぶ読んでおり、時代小説好きな小生には好ましい作家の一人だが、真面目過ぎて華やぐところが少ないのが物足りない。この小説も背景の描写やストーリーの構成展開は大変面白く読めるのだが、純愛を貫く主人公の男女の揺れ動く心の悩みがある筈なので、それを上手く表現してくれれば読後感がより素晴らしくなっただろう。

２．「心に龍をちりばめて」(白石一文)

　週刊ブックレビューで紹介され初めて白石一文を知った。その後「一瞬の光」「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」「ほかならぬ人へ」など何冊か読んだが、なかなか中身に入って行けないようなものが多い。その中で割に素直に読めた本であるが、最後のハッピーエンドになる場面は少しお粗末だった。

３．「マルセル」（高樹のぶ子）
　これも週刊ブックレビューで紹介された本である。この作者は以前「百年の予言」というヴァイオリニストを主人公にしたものを読み大変面白かった。今回は、実際にあったロートレック作のマルセルという絵画の盗難事件を題材にした推理・恋愛小説である。模写する人物が全く無名であることなど構成に少し難があったが面白く読めた。

４．「下町ロケット」（池井戸潤）
　直木賞受賞作だが、前年に読んだ「空飛ぶタイヤ」の方が面白かった気がする。中小企業の切実さが前作の方にリアリティがあった。「鉄の骨」「果つる底なき」も読んだが、企業の内幕の描写に違和感がなく読み進められた。また「シャイロックの子供たち」「「オレたちバルブ入行組」「オレたち花のバルブ組」などの銀行マンの話も面白く、今後も期待できる作家である。

５．「１Q８４(book1～3)」（村上春樹）
　村上春樹の本はテーマが判りにくい。｢海辺のカフカ｣もそうだったが、今ある世界と違う世界をまたいだ話が多い。今回の作品も主人公の青豆と天吾が違う世界に入って様々な出来事に遭遇するのが大まかな話だが、その間にオウム真理教の教祖と思われる人物の話の展開や、空気さなぎという不可思議なものの出現などの役割がはっきりせず、作者の考えに追いついていけない場面が多い。作者は何を言わんとしているのか、読者にもう少し分かるような展開が欲しい。要するに、何を描いているのか理解出来ない抽象絵画や、不協和音の連続の様な現代音楽を見聞きしたのと同じような読後感である。こう感じるのは年を取ったせいなのだろうか。

　とにかく楽しむための本を評価するのは難しい。本当は１０冊の読後感を書くつもりだったが、いささか疲れたし長くなり過ぎた。今回はこの５冊だけで終りにしたい。