　前回、平成２４年に小生の読んだ本の内、心に残った１０冊のうち５冊を挙げたが、今回は残りの５冊について述べたい。

６．「銀の島」（山本兼一）

　山本兼一の作品は平成２０年に「火天の城」（平成１６年発刊）という安土城を作った大工の物語と「雷神の筒」（平成１８年発刊）という信長の鉄砲隊を作った男の物語を読んでからの付き合いである。「銀の島」は平成２３年発刊の本で、ザビエルの来日と石見銀山の採掘権を巡ってのポルトガル人、中国海賊の助力を得てそれに対抗するザビエルに同行して帰国した安次郎などの物語である。ポルトガル軍が武装船団を率いて石見銀山を占領するために日本に向かうというという辺りは少し大袈裟すぎて、ついていけない所があるが、資料が少ない頃の話であり、フィクションとしてみればなかなか面白い出来栄えである。この本は２０１１（平成２３年）歴史時代小説ベスト１０という週刊朝日によるランキング（第３回）で１位に輝いた本である。

７．「麗しき花実」(乙川優三郎)

　乙川優三郎は平成１５年に「冬の標」（平成１４年発刊）を読んで知った。その後８冊目に読んだ「麗しき花実」は平成２１年に朝日新聞に連載され、翌２２年に発刊された。連載当時はあまり面白いとは思わなかったが、単行本を読み直して改めてその文章に引き込まれた。巻頭に蒔絵作品の写真が出てくるのだが、その出来栄えの素晴らしさが淡々とした文章の先にあるのだと思いながら読んだ。ヒロインの生きざまと心の動きの描写も良かったと思う。

８．「親鸞（激動編上・下）」（五木寛之）

　五木寛之の代表作「青春の門」は読んでいないが「戒厳令の夜」とか「風の王国」などの小説、「風に吹かれて」「大河の一滴」「百寺巡礼（全１０巻）」「日本人のこころ（全６巻）」などの随筆集などは数多く読んでいる。前作の「親鸞（上・下）」も勿論読んだが、今回の激動編は前作での生い立ちから京都での活躍。更に法然と共に罪を得て、越後に配流されるまでの続編である。

　小生の家の宗派は浄土真宗であり、親鸞や蓮如には関心があった。以前、「奥の細道漫遊紀行」で奥州路から越後路、北陸路をたどったが、その時上越市直江津にある居多ヶ浜という親鸞が３５才で越後に配流された時、上陸したという浜辺に立ち寄った。また近くの五智国分寺境内にある竹之内草庵という親鸞が数年を過ごした粗末な小屋を再現した場所を訪ね、赦免後恵信尼と共に暮らした場所といわれている国府別院などを見て回った。

　親鸞は許された後も数年の間この地で布教活動を続けていた。その後何故京都に帰らず遥か離れた常陸まで行ったのか疑問だったが、この本を読んでその回答も得られた気がした。親鸞は小生の住んでいる茨城県の笠間市にある西念寺を拠点にして２０年間の布教活動を行い京都に戻るのだが、その越後から常陸での活動や事績がこの激動編に書かれている。

９．「草原の風(上・中・下)」（宮城谷昌光）

　宮城谷昌光の本は平成９年に「重耳(３巻)」を読んで以来その独特な文章に魅せられて、殆どの著作を読んでいる。最近は中国の歴史物を書かずに日本の歴史物に転換した様子だったが、今回の｢草原の風｣は久々に中国後漢の始祖光武帝が主人公の作品である。著者の文体は中国の歴史物にはぴったりだが、日本を舞台にしたものには合わない気がしていたので今回の本は楽しく読めた。平成２３年発売の本である。

１０．「舟を編む」（三浦しをん）

　平成２４年本屋大賞１位の本である。三浦しをんの本は「まほろ駅前番外地」を読んだが、あまり良い評価をしていなかったので、どうしても読みたいとは思わず、取り敢えず図書館に予約だけしておいた。それが忘れた頃の１２月半ばに連絡があり読めることになった。まず表題からは辞書を編纂する話とは思わなかったので面喰ったのだが、読み始めると人物のキャラが面白く一気に読了した。辞書を作るという話は目新しいが、ストーリーにはあまり深刻さが無く、すらっと読める本である。

　以上で、前回を含めて１０冊の読後感を書き終えた。こうして見ると現代小説と時代小説が半々になる。しかし全体の読んだ本の比率としては現代物が６割を超える。ここ数年推理小説というか佐々木譲や今野敏などの警察物を読むことが多くなったせいだろう。

　しかし１０年以上前は司馬遼太郎、藤沢周平に代表される時代物の割合が７割以上を占めていた。この二人の主要な作品は殆んど読んだと思うが、平成８年と９年に相次いで亡くなられたせいもあるのか、その後時代物のウエイトが徐々に減ってきた。また司馬遼太郎の｢街道をゆく｣は時代小説とは言えないが、その博覧強記や｢余談ながら‐‐‐｣といって本題から離れたことを長々と楽しく書いているところが面白く、その独特な文体を味わいながらその殆んどを読了した。

　最近は年のせいで堅苦しい、深刻な内容の本を敬遠する傾向があると自分では思っていた。しかしここ２～３年のベストセラ－を見ると総合でも文芸でも軽い本が上位に来る事が多いようで、世間全般が変わってきているのかもしれない。

　今読もうとしている本は｢大江戸釣客（ちょかく）伝(上・下)｣（夢枕獏）という大晦日の｢本の神様 2012年｣で話題に出た本である。今年はどんな楽しい本がどれだけ読めるだろうか。