池井戸 潤 の 「ノーサイド・ゲーム」 を読んで
 

2020年2月7日 (金)
 池井戸潤の新刊である。昨2019年9月20日から11月2日まで日本で開かれたラグビーワールドカップ2019開催の直前の6月に発売され、引き続き7月から9月までTBS日曜劇場で放映された同名の演劇の原作でもある。

 ラグビーワールドカップ2019は日本が初めて世界の8強に名を連ねたこともあり、「One for all, All for one」のスローガンと共に日本中でラグビー熱が高まり、現在に至っていることは皆さんもご承知のとおりである。

 ノーサイドゲーム  池井戸 潤   ダイヤモンド社 

                 2019年6月発行


 主人公はトキワ自動車の本社経営戦略室から工場の総務部長に転任を命じられた北嶋隼人である。企業買収案件で、担当役員と対立し左遷された。工場の総務部長は伝統的にラグビー部の総括を務めることになっており、君島はラグビー部のGM(ジェネラルマネージャー)に指名された。

 しかし君嶋はラグビーはまったくの初心者だったのである。作者はラグビーというスポーツはまだ日本人には馴染みのない人が多いので素人目線で読み進んで貰いたいと考えたと言っている。

 トキワ自動車のラグビー部はアストロズという名前で以前は所属するプラチナリーグで優勝を争うチームだったが、近年は下位に甘んじていた。そして監督が家庭の事情で退任することになっており、GMとしての初仕事は新監督を見つけることだった。

 前監督が推薦した候補者が物足りなく思った君嶋は大学ラグビーで3連覇を果たした城南大学の柴門琢磨監督がOB会との軋轢で解任されたことを知った。

 君嶋は城南大学の出身で柴門とは同級生だったのである。君嶋は経営戦略室にいたとき、事業の成功は経営者の優劣によるところが大きいことを知り、スポーツでも同じではないかと考えた。君嶋は熱心に柴門にアプローチをし、遂に柴門を獲得することに成功した。

 チーム内のことを柴門に任せた君嶋は年間16億円の経費を使いながら収益が全然でないラグビー部の体質を改めるべく、ジュニアチームを作り、観客を増やすことから始めた。それとともに協会側にも観客を増やして収支を改善するよう働きかけたがなかなか効果が現れなかった。しかし地道な取り組みと強くなっていくチーム力との相乗効果によ、収支も改善する方向に進むのだった。


 表題のノーサイト・ゲームとは終わるまでは徹底的に勝利にこだわり、終わればお互いの健闘を称えあうラグビーの精神のことである。

 この本を読むとナンバーエイトとかスタンドオフなどのラグビーのポジション、役割が良くわかり、昨年秋のワールドカップの激闘が思い出される。また作者独特の経営に対する考えが述べられており、ラグビー以外のことにも考えさせられることが多い。
 池井戸潤.ならではの楽しく読めるエンターメント小説である。

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