「沈黙の終わり(上下)」
堂場 瞬一
(株)角川春樹事務所
2021年4月発行
堂場瞬一は茨城県出身ということで、親近感を持って読み始めた作家である。平成11年(2001)に作家生活に入り今年20周年(2021)ということもあってか朝日新聞の読書欄に一ヶ月前に書評家の大矢博子氏の書評があったので読むことにした。
堂場氏の本を小生が読み始めたのは平成 23年(2010)からなので、それにしても読み始めてから11年になり、その間40冊の作品を読んでいる。
しかしこの作家はスポーツ小説と推理小説(主として警察小説)とを並行して書いているので、主として推理小説か時代小説を読む小生には、中途半端な気がして読後感は書いていなかったが、今回、同じ推理小説作家の今野敏、佐々木譲、東野圭吾などの作家と同じ様に紹介しようと思った。
作者は新聞記者出身ということもあったが、今回の主人公は定年間近の東日新聞千葉県柏支局長の松島と東日新聞埼玉支局の若手記者古川の二人である。
発端は千葉県江戸川沿いの田園地帯で、7才の女の子が殺されたのが発見されたことから始まる。それを聞いた古川は4年前に埼玉の江戸川沿いで8才の女の子が行方不明になったことを思い出し、旧知の松島に連絡をした。それによって松島は33年前に江戸川沿いの流山で起きた7歳の女の子が殺された事件を思い出した。その事件は時効になってしまっていた。
その後二人の調べによって、埼玉と千葉でその間7件の6才〜9才までの少女が殺人または行方不明になっており、そのすべてが未解決だということが判った。しかし埼玉と千葉警察の動きは冷たく、取材への圧力もあった。二人はそれにめげずいろいろな伝手を頼り、次第に真相に近づいていく。その間に内部告発者や協力者が現れ、内容が次第に明らかになっていく。
そしてその取材の過程が緻密に描かれて、その結果、真犯人が判り、更に事件を隠蔽し続けていた政権の中枢にいた黒幕の正体が暴かれるのだった。
最後の頃に「新聞はいつ、権力に飲み込まれたのだろう。自分が新人の頃にも、誰かに気を使って記事を書かないことはよくあった。しかしそれが、いつの間にか当たり前になってしまった感じがする。そうしているうちに記者の取材能力は衰え、読者の信頼を失う。」という松島の考えが述べられている。
また、大矢博子氏の書評にも「今更、新聞の信頼を取り戻すのは難しいかもしれない。俺は、一番の原因は権力に対するまっとうな批判が無くなったことじゃないかと思うんです」との古川の言葉に触れ、自らも新聞記者だった著者による今の新聞メディアへの警鐘である。批判である。祈りである。と記載されている。
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