　１００分de名著　「華氏４５１度」

　　　　　　　ブラッドベリ・レイ　著
　　　　　　　戸田山　和久　講師

　　NHKテキスト　　２０２１年６月発行

　NHK　Ｅテレに、毎週月曜日午後10：25～10：50に「１００分de名著」という番組がある。１回２５分で４回/月あり、合わせて１００分で古今東西の名著の奥深さをその道に詳しいプレゼンターが分かり易く、楽しく解説するというもので、１０年前の２０１１年からやっており、現在の司会者は伊集院光とNHKの安部みちこである。

　今年1月に「人新世（ひとしんせい）の資本論」という本について紹介したことがあるが、その時、「１００分de名著」でその本の解説があることを知った。それ以来、「１００分de名著」が見ごたえがあると思い、何回か録画し暇を見つけて再生するようになった。４月の渋沢栄一「論語と算盤」、５月の三島由紀夫「金閣寺」などである。そして６月が今回紹介する「華氏４５１度」だった。

********************************************************

　「華氏４５１度」（摂氏２３３度）とは紙が自然発火する温度だそうで、本を所持しているのを見つかると家ごと焼き払われてしまうという近未来のディストピア（理想郷を意味するユートピアの反対語）の話である。

　作者はアメリカのSF/ファンタジー作家のレイ．ブラッドベリが１９５３年（昭和２８年）に発表したもので、当時はアメリカではマッカ－シズム（赤狩り）という共産主義脅威論が蔓延し、一方では車やテレビなどによる消費財の増加による時代変化のスピードが早くくなってきた頃のことである。
　このTVを見て驚いたのは６０年以上前に作者が将来こうなるだろうと想像して書いた内容が現在ほとんど同じようなことになっていることだった。

　作者は２０世紀になると社会の加速化により、読書文化は衰退するという。「フイルムの速度は速くなり、本は短く圧縮される。古典は１５分のラジオ・プロに縮められ、次にはカットされて２分間の紹介コラムにおさまり最後は１０行かそこらの梗概となって辞書に乗る。要約・概要、短縮、抄録、省略だ。」という。

　司会の伊集院光がこの講座のことを云われいるような気がするが、自分はこの後、ちゃんと本を買って読んでいると言っていたが、自分はなかなか本を買う所までは行けずにNHKテキストだけを買った
　
　この本はモンターグという禁じられた本を燃やす仕事をしているファイアーマン（消火士)の青年が、本を燃やす仕事とそれを必要とする社会の在り方に疑問を抱くようになり、しまいには社会を捨て、本を守り伝える人間として生きて行く決意をする物語である。

　人が本を読まなくなった理由は①、社会の加速化である。例えば電話が携帯になり、スマホに変わっていく速さ、電子計算機が卓上コンピュータになり、ノートパソコンになり、タブレットからスマホに変わっていく。テレビが双方向になり、YouTubeが増加する。車がガソリン車からハイブリット車になり電気自動車に変わっていくなどであろうか？。

　②反省的思考から反射的思考への変換＝じっくり考えるのではなく直ぐに結果を求める。メールやラインにすぐ返事しなくては仲間外れになると思う。

　③単純化、ダイジェスト化、事なかれの均一化、低俗化＝不愉快、傷つくという抗議の声を恐れて表現者が自ら表現を手放していく。テレビも本も同時進行的に劣化して行く。つまり、作者レイ．ブラッドベリが予測した方向に現在は進んでいるのである。

　要は、権力の強制ではなく、自らの意志で本を読む＝考えることを放棄し、過去を忘れ、目先のことに満足して過ごしている。

　プレゼンター役の戸田山和久氏（名古屋大学大学院教授、専攻は科学哲学）は「私には現代のわれわれの社会もモンターグなどが生きる『過去を忘れる社会』に重なって見える。『記憶にございません』という国会答弁の何と多いこと。
　また公文書や記録を平気で隠蔽・改ざん・抹消し、そのために人が亡くなるということさえ起きている。原発事故はその検証も終わっていないのに首相が世界に向かって『アンダーコントロール』だと表明し、復興をうたうイベントに狂奔する。今の日本も明らかに過去を忘れ、過去を無いものにする社会です。」と述べている。
　

top↑

（この項終わり）