　　　　　「WHAT IS LIFE? 生命とは何か」

　　　　　　　ポール・ナース　著
　　　　　　　竹内　薫　訳　兼プレゼンター

　　

　NHK　Ｅテレに、毎週月曜日午後10：25～10：50に「１００分de名著」という番組がある。１回２５分で４回/月あり、合わせて１００分で古今東西の名著の奥深さをその道に詳しいプレゼンターが分かり易く、楽しく解説するというもので、
　8月の「１００分de名著」は夏休みスペシャルとしてトルストイ著「人は何で生きるか」、ポール・ナース著「WHAT IS LIFE? 生命とは何か」、バルファキス著「父が娘に語る経済の話」、「竹取物語」、を４週に亘って毎週２５分づつティーンズを対象にして実施した。その中で第２週目の「WHAT IS LIFE? 生命とは何か」を見て感銘を受けたので紹介したい。

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　今回の著者であるポール・ナースは２００１「生殖」と細胞レベルの「分裂」を生命の本質と捉え、そのメカニズムの解析によりノーベル生理学・医学賞を受賞した細胞生物学者である。１９４９年（昭和２４年）に英国生まれの現代人で、飛行機の操縦法を学びクラシック飛行機を操縦するそうである。「WHAT IS LIFE? 生命とは何か」の進め方について、著者は五つのステップに分けて説明している。

　ステップ①は細胞である。生命の基本単位は細胞であり細胞が生物学の「原子」に相当する。殆どの細胞は小さすぎて１７世紀初頭に顕微鏡が発明されるまで発見されなかった。しかし大きい細胞もある。卵の黄身全体が一つの細胞であり、一方膀胱に感染する寄生虫の細胞は１ミリメートルの隙間に３０００個もはいってしまう。細胞はあらゆる生命の中核をなす特徴を備えた最小の存在であり、地球の生きとし生きるものは一個の細胞かあるいはたくさんの細胞からできている。
　　18世紀から19世紀初めにかけて、顕微鏡技術が進歩すると完全な細胞説が誕生した。「つまりすべての生物体たちは細胞で出来ている。そして新しい細胞はすでにある細胞が二つに分裂することによって繁殖する」ことが判ってきた。

　そして細胞の中核となるのがステップ②の遺伝子である。すべての生物に通じる明らかな特性として親と子が似ていることがあげられる。１９００年頃に遺伝的特徴は遺伝子と呼ばれる一対の物理的な粒子の存在によって決まることが判ってきた。更にそのことは酵母から人間に到るすべての有性生殖種に当てはまることが明らかになってきた。

　人間の遺伝子は一つ残らず一対で存在している。生物学上の両親から一つずつ受け継いだ遺伝子は、受精した瞬間に結合した精子と卵子によってっ伝えられる。それを染色体と言い、すべての細胞に存在する物理構造で遺伝子を含んでいる。そして遺伝子はDNAで出来ている。その構造を解析することによって、遺伝子は物理と化学の法則に従う化学物質として理解されるようになった。

そしてステップ③は自然淘汰による進化である。ダーウィンは進化のメカニズムとして自然淘汰を唱えた。キリンの長い首は変異型がランダムに出現し累積したことで、キリンの先祖の一部が僅かに高い枝に届くようになり、葉をたくさん食べて栄養を多く撮れるようになった。最終的に、お腹が満たされたキリンの方がより体力があり、若いキリンを生む能力にも長けていたためアフリカのサバンナを歩き回るキリンの群れは徐々に長い首を持った個体に支配されるようになった。
　食べ物、配偶者を巡る争い、病気や寄生生物の存在など、あらゆる種類の自然要因による制約を乗り越えた個体が、結果として他の個体より多く繁殖するからである。
　３８億年前に生命が発生し、それから現在に至るまで多くの種が生まれそして消滅して現在の膨大な種が生き残った居るが自然淘汰による進化が起きるためには、生命体が三つの決定的な特性を備えている必要がある。第一に繁殖する能力があること。第二に、遺伝システムを備えていること。第三に、その遺伝システムが「変異」を示し、その変異が生殖過程で受け継がれていくことが必要である。

　ステップ④は生命現象の根底には化学反応があるということである。糖が発酵してエタノールに変わる現象から「酵素が触媒とする化学反応」が細胞の代謝の基礎となるということが判った。.(この研究によりポール・ナースはノーベル賞を受賞した）
　この分裂酵母というビールを作ってくれる生き物の仕組みが、人間を含めた「生き物」すべてに共通しており、現在ではあらゆる生物の細胞の中で何百何千もの化学反応が同時進行していることが判っている。
　こうした化学反応が生命を司る分子を作り出し、細胞の成分や構造を形作る。この様な生命体で発生する膨大な化学反応のことを「代謝」と呼び、それが生きているものが行うすべての基礎である生命の化学反応だと言っている。

　ステップ⑤は情報としての生命ということである。生命の本質は情報のアップデイトであり、複雑化する地球に対応するために生物はどうすべきか、その時必要なものは異なる分野の科学者たちの協力であり、生物学者は、これまで以上に数学者やコンピュータ技術者や物理学者など他部門の科学者さらには哲学者などの協力を得ることが必要だという。

　地球は４５億年前、太陽系の黎明期に形成された。初めの５億年ほどは、この惑星の表面は熱すぎて不安定で、我々が知るような生命は物理的、化学的に出現できなかった。これまでに特定された最も古い生命体の化石は３５億年前に生息していたものだ。もっとも古い化石は現在の細菌の幾つかに似ている。これはその時点で生命が既に膜につつまれた細胞、DNAに基づく遺伝システム、たんぱく質に基づく代謝作用などを備えていたことを意味する。

　次に、２０億年ほど後にもっと大きくて複雑な真核生物が加わった。更に１０億年ほどたってから多細胞の本当の真核生物が現れた。多細胞の生命が地球に存在しているのはここ６億年ほどで、そびえ立つ森林、サバンナの哺乳類の群れ、ごく最近に出現した現世人類も含め、大きい生命体の全てが生まれた。

　我々は皆、生存競争を生き抜き、細胞分裂という途切れのない鎖を遡り、最古の果てへと繋がるたった一つの家系の子孫たちなのだ。
　人間はこうした深い絆を理解しその思いをはせることが出来る唯一の生命体だ。だから我々は、こんな風に作り上げた地球の生命に対して特別の責任を負っている。と作者は最後に述べている。

　「１００分de名著」のTVを見た後、　「WHAT IS LIFE? 生命とは何か」の本を購入した。TVだけでは分からない事が多すぎたからである。まずDNAの知識がなさ過ぎた事、ゲノム編集とは何か？、タンパク質や酵母の役割？など知らないことが沢山あり、生命学の進歩に追いついていけない。その中で地球上の生物はその機能の基本的な部分は皆同じであるということは地球は人類のためばかりにあるのではないことを重く考えなくてはいけないことなのだということはよく判った。

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（この項終わり）