月山

イバイチの奥の細道漫遊紀行

[月山・湯殿山]

H21-12-１４作成　

月　山

　月山には、月山レストハウスのある８合目まで車で行く予定だったが、前夜泊った休暇村｢羽黒｣で、降雪があり月山高原ラインは４合目までで閉鎖されたとの話を聞いた。、しかしそのままでは残念なので、少しは良い景色のところがあるだろうと、紅葉を探して４合目の扉が閉まっている所まで登った。が、あまり良い紅葉には恵まれず、帰路山麓の月山高原牧場に立寄って牛や羊が緑の牧草をのんびり食べているのを眺めた。天気は良くなってきて、月山高原牧場から雪を少しかぶった月山山頂まで良く見えた。せめて８合目までは行きたかったと後ろ髪をひかれる思いをしながら下った。

　芭蕉は羽黒山南谷別院で３日泊って俳諧興行などした後、月山に登って１泊し更に湯殿山に参詣して南谷別院に戻っている。月山に泊ったのは陽暦７月２２日の夏のことだった。別院では更に３泊し、八吟歌仙の俳諧興行を終了させた。つまり出羽三山めぐりに７日間を費やしている。おくのほそ道には月山、湯殿山に登った後に、「坊に帰れば、阿闍梨の需（もとめ）に依て、三山巡礼の句々短冊に書。　涼しさや　ほの三か月の　羽黒山　　　雲の峯　幾つ崩て　月の山　　　語られぬ　湯殿にぬらす　袂かな　　　湯殿山　銭ふむ道の　泪かな　曽良　」　と記されている。　 (H15-10-20訪)

玉川寺庭園

　月山に上がれなかったので予定していなかった国指定名勝「玉川寺庭園」を見学することにした。玉川寺は羽黒山のふもとにある曹洞宗の古刹で、四季折々の花に囲まれ「花の寺｣といわれている。庭園は江戸時代初期の羽黒山別当だった天宥上人が作庭したものである。庭園の様式は池泉回遊式蓬莱庭園といわれ、池に三つの島がありそれぞれ橋で繋がっている。また舟泊り石というのがあり、舟で蓬莱山に向かう光景をかたどっているといわれている。
　天宥上人は羽黒山のページに記したように出羽三山中興の祖といわれる人で、出羽三山参道の石段を整備し、天然記念物になっている杉並木の植林もした人である。　　 (H15-10-20訪)

湯殿山

　芭蕉は羽黒山から月山、湯殿山を参拝し羽黒山に戻ったが、私は月山に登り損ねて、鶴岡から酒田、象潟を巡った後、小雨の中を酒田港ＩＣから山形自動車道を湯殿山ＩＣに向かった。途中から雨が止み雲の切れ間から青空が見えてきて、湯殿山ＩＣから自動車専用道路に入る頃は太陽も顔を出し、今まで霧に隠れていた周りの山々は見事な紅葉で迎えてくれた。

　湯殿山ドライブウェイを降り、湯殿山神社本宮の大鳥居を潜ると遥かに湯殿山の稜線が、白雲を従えてくっきりと姿を現してくれた。奥の院口まで専用バスで行き、結界を表す注連縄が続く細道を下ると小さな門と社務所があり、ご祈祷料を納めると「ひとがた」の紙人形を貰える。それで全身を撫で、ひとかたを傍を流れる小川に流すと穢れを取ったことになるらしい。靴を脱いで裸足になり門内の小路を曲がると、赤銅色をした岩の塊の御神体が眼前に姿を現す。お湯が涌き出る御神体を拝み、その上に昇ることにより参拝が完成するのである。

　おくのほそ道では、月山山頂に泊ったあと湯殿に下るとして、刀鍛冶の話、遅桜（タカネザクラ）の話、山伏修験者の行尊僧正の歌の話などを記して、湯殿山のことは　「惣じて、この山中の微細、行者の法式として他言する事を禁ず。よって筆をとどめて記さず。」　と何も書いていない。

　奥の院の門を出たところが湯殿山から月山に向かう登山口になり険しい山道が続いているが、そこに芭蕉と曾良の句碑があった。「語られぬ　湯殿にぬらす　袂かな　」　「湯殿山　銭ふむ道の　なみだ哉　　曾良　」の二つの句碑が前後に並んでいたが、案内板などは無いので気を付けていないと見過ごしてしまうようにひっそりと建っていた。
　出羽三山巡りは現世の羽黒山から死者の山である月山に登ることにより穢れた体を死なせ、それを湯殿山で再生させる巡礼路といわれている。芭蕉がわざわざ俳人として初めて出羽三山を巡ったのは、今まで歩んできた俳諧の道をいったん帳消しにして新たな俳諧の創造を模索するためだったのだろうか、芭蕉の俳論の大きな柱である「不易流行」はここで出会った呂丸との問答にその萌芽があるといわれる。

　庄内鶴岡方面から湯殿山に行くには山形自動車道に乗るのだが、湯殿山ICで降り国道１１２号線を少し戻ったところに道の駅「月山」がある。山形自動車道が出来たので観光客が素通りし、閑散とした道の駅になってしまっている。ここは月山あさひ博物村という場所になっており、月山ワインの製造工程を見ることが出来る。深い渓谷の梵字川に架かる吊り橋の対岸には旧１１２号線のスノーシェッドを利用した月山ワインの貯蔵庫があり夏でも１７度の天然ワインクーラーになっている。

　国道を挟んで文化創造館があり、旧朝日村（現鶴岡市）名誉村民の作家森敦の遺品や原稿、彫刻家渡部星村の作品、教育者佐藤源治の天狗面などのコレクションが展示してある。森敦はこの博物村から山を登ったところにある旧朝日村の注連寺での一冬の暮らしを書いた「月山」で昭和４９年の芥川賞を受賞した。当時六十二才の最高齢受賞として話題になったものである。

　江戸時代の山岳信仰では、出羽三山の主体は湯殿山であると考えられるようになり、白装束に身を包んだ行者（参拝者）は庄内地方と寒河江、山形を結ぶ六十里越街道という険しい山岳道を通り湯殿山に参拝した。その古道が国道１１２号線から更に山深く入ったところに現存し、その道筋には前述の注連寺や大日坊という大きな寺があり、それぞれ即身仏（ミイラ仏）が安置されていて参拝者の信仰を集め、また湯殿山参拝の宿泊所や休息所になっていた。以前この街道は冬は雪に閉ざされ部落は陸の孤島となって外界と途絶し春を待っていたのだが、その辺のことは小説「月山」に詳しい。　 (H15-10-22訪)

月山登山

　平成１５年の７０才の時に月山に行き損ねてから５年が過ぎて平成２０年の７５才のとき、もうこれ以上延ばしては登れなくなってしまうだろうと思い、一大決心をして半年前から毎日７千歩のウオーキングを続けて足腰を鍛え、登る準備をした。しかしこの年になって月山に一人だけで登るのは不安だったので、インターネットで調べ休暇村「羽黒」から月山登山のツアーがあるというのを見つけた。メールで問合せたところ、ガイドも二人付くし、大丈夫だというので参加することにした。月山登山プラン２泊２３，０００円のコースで前日休暇村に泊り、翌日月山往復の日程である。前日休暇村に着くと、月山登山プランに参加するのは８名で、ガイド２名が付き計１０名で登ると言われた。天気は曇りの予報で、今日（７月２９日）よりは良いが雨具は必携とのことである。

　平成２０年７月３０日、いよいよ月山に登る日である。朝は月山山頂が見えていたが、出発する頃は雲に隠れてしまった。フロントから昼食のおにぎりを貰って８時１５分ごろ休暇村の小型バスで出発である。同行８名は夫婦２組、男性が私と他に７４才の人、女性単独が２人の構成である。ガイドは前日も月山から湯殿山まで案内したという沢田さんと休暇村スタッフの佐藤さんである。前日は雨の中４０名の大人数で、半そで半ズボンの男などや途中で足が上がらなくなり抱えながら歩いた男などが居て閉口したとのことだった。今日は大丈夫だろうねと言われた気がした。

　車で上がれるのは八合目の月山高原レストハウスまでである。ここから準備を整えガスの中を９時２５分に出発した。ここは標高１４００mあり、１９８４mの月山山頂まで約６００ｍの高度差がある。レストハウス周辺は弥陀ヶ原という湿原になっており、木道が渡してあり、路線バスも来るので一般客を結構多くいる。湿原には多くの池塘があり日光キスゲやキンコウカなどが鮮やかな黄色の集落を見せている。（写真は日光キスゲとキンコウカ）

　月山登山口の標識のある無量坂から木道は途切れて石を踏みしめながらの登山道になる。ガスの中で眺望は望めず足元を見詰めながら黙々と登る。登山道の両側には高山植物が咲いており、ガイドが花の名前を教えてくれるので楽しく登れた。
（写真は左から白山いちげ、白山ふうろ、つがざくら、岩かがみ）

　四葉シオガマ，岩いちょう，うらじろようらく，ごぜんたちばな，白山ちどり，岩かがみ，みつばおうれん，白山ふうろ，ちんぐるま，白山いちげ，つがざくら，みやまりんどう，千島ききょう，みやまうすゆきそうなどである。覚えきれるものではなくメモ書きしておいて帰宅してから高山の花図鑑を買い照合した。
（写真は左からうらじろようらく、みつばおうれん、トウヤクリンドウ）

　　九合目の仏生池小屋に１０時半に着く。小休止の後、相変わらずのガスの中を登る。時折ガスが切れると雪渓が眺められ、また雪渓の上を歩く所もあり、花もたくさん咲いており、疲れた体を和ませてくれる。修行する行者も引き返すといわれる行者返しの急坂を登ると尾根道に出る。ここからの眺望は鳥海山をはじめとした景観が素晴らしいとのことだが、今日はすべてガスの中で何も見えなかった。（写真は左から雪渓を眺めるメンバー、仏生池小屋前の祠、行者返しの急坂）

　やがて右前方に建物が見え出し、山頂の月山神社前に出る。１２時２５分の到着だった。７５才６ヶ月での登山である。無事に他にメンバーのお荷物にもならず２千メートル近くの山に登れて、感無量である。月山山頂小屋で昼食を食べ、相変わらずのガスの中を湯殿山方面への降り口近くにある芭蕉の句碑を見に行く。　「雲の峯　いくつ崩て　月の山　　桃青」　と刻まれている。
　おくのほそ道には「八日、月山にのぼる。木綿（ゆふ）しめ身に引かけ、宝冠に頭を包、強力と云ものに道びかれて、雲霧山気の中に氷雪を踏てのぼる事八里、更に日月行道の雲関に入るかとあやしまれ、息絶身こごえて頂上に臻（いた）れば、日没て月顕る。笹を鋪（しき）、篠を枕として、臥て明るを待。日出て雲消れば、湯殿に下る。」と記されている。「木綿しめ」とはこよりで編んだ首にかける注連（しめ）。「宝冠」は頭を包む白い布のことである。

　曽良旅日記によると陽暦７月２２日に七合目の高清水まで馬で行き、八合目の弥陀ヶ原で昼食。４時ごろ山頂に到着し、月山権現を拝した後角兵衛小屋に至るとある。その粗末な小屋で一夜を明かし翌日湯殿山に下り、昼ごろ月山山頂まで戻った。更に月山を下ると６合目の平清水に弁当を持った迎えの者が待っていて夕方南谷に戻ったが、甚だ疲れたと記している。
　芭蕉句碑から山頂の月山神社に戻り、御祓いを受け神社に参拝する。雨が降ってきたので合羽を着て、１３時２５分に山頂を降り始める。下りは登りのように息は切れないが雨で石が濡れ、滑らないように一歩一歩踏みしめて降りるので登りより疲れ、時間もだいぶ掛かった。8合目駐車場着16時30分で山頂での１時間を含め、７時間の行程だったが、全員無事に登頂出来て良かった。　　 (H２０-７-３0訪)

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注２）　青字は「おくのほそ道」にある句です。
注３）　緑字は「おくのほそ道」の文章です。