七つ洞

水戸市七ツ洞公園

イバイチの
旅のつれづれ

　水戸市郊外に七ツ洞公園という名のイギリス式庭園と呼ばれる方式で造られた公園がある。この公園は水戸市によって平成１１（1999）年７月に開園された。設計したのはイギリスの造園コンサルタント会社で、これまでに１５．８ヘクタールの総面積のうち、８ヘクタールが整備されている。この公園は昭和６２（1987）年にふるさとの森整備事業として整備が始められたが、平成３年に基本計画の策定をイギリスのコンサルタントに委託し、平成４年から平成１０年までに８ヘクタール分の用地取得、整備工事を終了し、開園したものである。（写真は水戸市が発行したパンフレットの一部）

　園内にある積み石やレンガなどで作られたパビリオンやフォーリー(装飾物としての建物)の材料はイギリスから運ばれたそうで、総工費は１０億円かかったそうである。また秘密の花苑という名の草花を１００種類以上植え込んだ花壇も造ったが、日本の気候に合わなかったためか生育しないものが多かった。

　場所は国道１１８号線を水戸市中心部から車で２０～３０分ほど走り、常磐高速道の高架と交わる少し手前の信号のある交差点を左折して数分の所に駐車場があり、交差点と駐車場にそれぞれ「七ツ洞公園入口｣「七ツ洞公園｣の表示がある。更にその先には茨城県農村研修館の大きな表示板の脇に小さな「七ツ洞公園駐車場｣の表示がありそこを左折して広い道を行くと１５０台収容できる大きな駐車場がある。（写真はそれぞれの案内標識）

　水戸市都市計画部が平成１６年に発行したパンフレットによると「七ツ洞は、大小５つの池と清流、それらを取り囲む森から形成され、自然環境を豊かに残しており、池のほとりには古墳時代の遺跡である権現山横穴群も残されています。このように七ツ洞は、公園整備の資源として変化に満ちた池、清らかなせせらぎと起伏に富む森が融合し、素朴で１枚の絵のような風景を持ち合わせており、この要素を最大限に保全し生かしながら、生態系の維持を基本とする自然風景式庭園を基調として整備したものです。」と記されている。
　平成２４年９月にその三分の一ほどに縮小したパンフレットが発行されたが、それにも同様の文言が記されている。
（パンフレットは観光案内所にあると思うが園内では遊具施設のある付近の管理事務所で保管している）

　この公園は今までは花壇が荒れ果てたせいか水戸市のＰＲは殆んど無く、水戸市民でも知っている人は少なかった。イギリス式庭園とはフランスなどの左右対称の幾何学的に作られた整形式庭園に対し、苑池などを多用した自然の景観美を追求したもので、風景式庭園と呼ばれているのだが、小生が初めて訪れた平成２０年３月にはほとんど人影は無く、整備すれば素晴らしい景観になると思われる勿体ないような場所だった。

　その忘れられたような場所が突然脚光を浴びたのが、平成２４年(2012)４月に映画「テルマエ・ロマエ」のロケがこの場所で行われたことによってである。原作はヤマザキマリが平成２２年（2010）にマンガ大賞と手塚治虫文化賞を受章したコミックで、それを武内英樹監督が阿部寛、上戸彩などのキャストで映画化したものである。日本ばかりでなくイタリア、台湾でも上映され、観客動員数は４月から９月までに４７０万人を超え興行収入も上位を占めているそうである。（写真はＤＶＤの案内）

　七ツ洞公園への来園者も以前の１．６倍に増加したということもあり、水戸市ではロケ現場を示すパネルを何カ所か掲げてＰＲに努めている。また秘密の花苑には水戸市立植物公園の関係者とボランティアの人たちが共同で秋の草花を植えたのが見ごろになっているというような話を聞いて、平成２４年１１月に平成２１年５月に続く３回目の訪問をした。

　七ツ洞公園は案内マップにあるように大小５つの池とその池を支える５つのダムがあり、ダムの堰堤にはパビリオンやパーゴラ、またフォーリーと呼ばれる建造物が点在している。池の上方には秘密の花苑と呼ばれる花壇や子どもの遊具が置かれたプレイゾーンや運動が出来る広場などがある。池の両側には木道や小径が造られ、それらの園路を散策していると１時間や２時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。池にはブラックバスが生息しているとかで釣り糸を垂れている人も居る。（写真は公園入り口の案内マップを一部拡大したもの）

　順路としては、殆んど水が無く葦の生い茂っているダムＡを見渡せる駐車場から池の向って左側の岸を下って行くところから始まる。（この駐車場は２０台くらいしか停められず、大きな駐車場が奥の広場脇にあるので混む時はそちらに駐車することになる）以前はこの駐車場にパビリオンがあったが、平成２３年３月１１日の震災で壊れてしまったらしく見当たらなかった。（写真はパビリオンのあった場所、ダムＡを流れる水路、平成２１年当時のダムＡ側から見たパビリオンのある景色）

　園路を進むと、初めに見られるのは「洞窟と水のせせらぎが聞こえるパビリオン」というコンセプトで、那珂川から取水して駐車場の下を流れる水の音が聞こえる洞窟状の場所である。パビリオンは無くなってしまったが、その下にある水の音を集める場所は井戸の様な形状に作られているため、映画で古代ローマにタイムスリップするための井戸の撮影に使われた場所である。その脇には水戸市が作った説明のパネル板が設置されている。水は更に下に作られた暗渠を通ってダムＡに注ぎこんでいる。ダムＡはその小川が流れるだけで、貯水池の役割を果たしていない。（写真は井戸状の水音が聞こえる場所、撮影場所を示すパネル、現在のダムＡ側からの景色）

　ダムＡの左岸にある木道をたどるとダムＡとダムＢを分ける石積みの堰堤と石造の城門の様なフォーリーがあり古代の歴史を感じさせる。フォーリーの前で若い男女３名がゲームに出てくるような奇抜な服装で、腰に何本も刀を差した扮装で立っていた。何をするのかと聞いたら写真を撮るのだという。ユーチューブにでも出すのかと更に聞いたら、動画でなくスチール写真を撮るのだと言っていた。見ていられるのは迷惑そうな素振だったので早々に立ち去ることにした。（写真は石積みの堰堤、石積みとその奥にあるフォーリー[２景]、フォーリーの表側と内部及び内部から見た風景）

　そのままダムＢの左岸の小径を進むと小島があり、四阿（あずまや）が建てられている。島の左岸からと右岸からは木の橋が掛けられており、そこを通る事によって「足元で水の流れを感じる」というコンセプトである。この橋と小島がダムＢとダムＣとの区切りになっていて、今まで通った左岸からダムを横切って右岸に渡るようになっている。鏡の様な湖面には湖岸の木々が映って美しく、物音ひとつせず静寂そのものだった。（写真は四阿（あずまや）２景、木橋から見たダムＢとダムＣの眺め）

　右岸の木製の小径を行くと少し高く造られた展望デッキの様な四阿（あずまや）風の建物があり、休憩できるようになっている。しかし木々が多く茂っていて、そこからは水面は僅かしか見えない。（写真は木製の小径、展望デッキ２景）

　展望デッキを下り、小径を更に進むとダムＣとダムＤを分ける堰堤に出る。堰堤上の小径をたどると、パーゴラとその奥に魚の口から水を吐き出している壁泉がある。「壁泉の水音を感じながらくつろげるパーゴラ」ということになっている。この堰堤から眺めるダムＣと今通ってきた四阿（あずまや）と木の橋の景観は一幅の絵画の趣きがある。（写真はパーゴラ、壁泉、四阿（あずまや）と木の橋の風景２景）

　また右岸に戻り、ダムに沿った道を進むと次の堰堤でダムＤとダムＥが分けられ、堰堤の中央に橋がかけられている。橋の下は「階段状に落ちる水の流れを表現したカスケード（階段状に流した水の流れ）」が造られ水が流れ落ちている。その先の左岸には小さな四阿（あずまや）がありダムに浮かぶ水鳥やパビリオンのある風景を眺めながら休めるようになっている。（写真は堰堤上の橋、カスケード、ダムＤの眺め、奥にある四阿）

　四阿（あずまや）からダムの左岸に沿って小径が続き、ダムＥの排水口の上にパビリオンが建っている場所に繋がっている。この場所が５つあるダムの終着点で「階段沿いの水の流れを楽しみながら望むパビリオン」だそうである。排水口からの水は那珂川に戻されるがこのパビリオンや排水口付近も映画に使われたそうである。（写真はダムＥの池の先にあるパビリオン、ダムＥの水面とカスケード、排水口側から見たパビリオン、階段状の水路、排水口、坂の上から見たダムＥとパビリオン）

　ダムＥのパビリオンから坂道を上がると秘密の花苑という名の庭園がある。レンガと生垣に囲まれた円形の敷地を４区分して約１００種類の植物を植栽したのだが風土に合わず、数年後には枯れてしまったものが多かった。しかし今年はその敷地の一部に約４０種類、９００株の秋の草花が植えられ、華やかな色彩で彩られている。これは前に述べたように水戸市植物公園の全面的な協力と一般ボランティアの尽力によって出来たものであり、来年は更に多くの草花を植える計画だそうで楽しみである。（写真は植えられた草花２景）
　「秘密の花苑」の名前の由来は、イギリス生まれのアメリカ人作家バーネット女史の「秘密の花園」という作品からきている。バーネットは「小公子」「小公女」などの児童文学の作者として知られている。「秘密の花園」とはある事情から決して開けるなといわれて１０年間閉ざされた花園を開けた少年と少女が内緒でその花園の手入れをして、もう一人の障害があり歩けなかった少年を仲間に入れて、その少年が走り回れる様になるという内容の児童文学である。

　秘密の花苑は苑の外からは見えないように造られており、ライオンの彫像のある入口を入って初めて内部が分かるようになっている。中は花壇の他にビクトリア調といわれるパーゴラや日時計の様な物もあり、花苑全体が整備されたら素晴らしい場所になる予感がする。(写真は花苑入口、内部の様子２景、パーゴラ、日時計）

　秘密の花苑の隣は森林庭園という名になっており、丁度もみじが真っ赤に色づいていた。その先には児童の遊具施設のある遊園地や芝生の広場があり、親子で楽しめる場所で、晴れて暖かい時はいつも子供たちの歓声で賑わっている。（写真は真っ赤に色づいたもみじ４景と遊園地）

　この秘密の花苑や森林庭園などがある地区をエリアＡと名付け、「イギリス式庭園技法を用いた施設で季節感やその色彩を色濃く映し出す」ということになっており、下に降りたダムのある地区をエリアＢとして「人間がつくってきた文化や自然界の変遷を５つの池とダムで表現している」ということにしてある。また、まだ整備していない池の対岸はエリアＣ地区のピクニックガーデン、エリアＤ地区の芸術の森公園として整備する予定になっている。
　しかし現状でも池の畔の小路を歩き、その区切りごとに置かれているフォーリー、パーゴラ、パビリオンなどに休んで、今通ってきた池や新たな池の景観を鑑賞し、最後のパビリオンから広々とした田園風景に沈む夕陽をゆっくりと眺めていると、時の経つのを忘れるほどである。またそこから坂道を登ると、秘密の花園のいろいろな花や、森林庭園のシャクナゲやモミジなどが出迎えてくれ、池を巡った時とは違った華やかな気分にしてくれる。とにかく、この公園で一番好いのは、まだ訪れる人が少ないため、一人っきりで、または二人だけでゆっくりのんびり自分たちの世界に浸って逍遥できることだと思う。このゆったりした雰囲気が壊れないようにして貰いたいものだ。(写真は夕暮れのダムＥのパビリオン）

　なお七ツ洞公園の由来はダムＤの池の右岸に権現山横穴群という横穴式古墳があり、現在５基存在するが以前は７基あったとされることから七ツ洞と名付けられた。今は池の水が多くて横穴は見られないが、渇水期には入口近くは見えるとのことである。（写真は横穴群のある場所）

水戸には日本３名園の一つである「偕楽園」を始めとして、恐竜の模型が１４体もある「森林公園」、花と水の豊富な「植物公園」、だいだら坊の大きな石像のある「大串貝塚ふれあい公園」などのユニークな公園が多くあるが、イギリス式自然風景公園であるこの「七ツ洞公園」もなかなか味のある公園である。秘密の花苑に多くの花が咲き、５つのダム池が季節ごとに自然に景観が変わって行くのを観賞するのは、日本離れをした非日常の空間に遊ぶ楽しさに浸れる良い機会である。

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