弘前1

冬の青森・弘前 (3) 雪の弘前市内　

イバイチの
旅のつれづれ

７．弘前へ

　「びゅうばす青森･弘前号」はまたまた一人だけの乗客を乗せて青森市から国道７号線を弘前市に向って走っている。やがて五所川原市に向う国道１０１号線との分岐点に近づくとガイドが五所川原の立佞武多（たちねぶた）の説明をしてくれた。青森のねぶたは有名になりすぎたが五所川原の立佞武多はまだあまり知られていないのでそんなに混まないとか、７階建てのビルに相当する２２メートルの高さがあり、常設の館があるのでいつでも見られるとかいうことである。

　さらに金木地区には太宰治の生地である斜陽館があり、今年は生誕１００年にあたるので行く人が多いなどの話の後、突然「お客さんは、太宰の本はあまり読まないでしょう」と言う。吃驚して「何故」と聞き返すと「顔に書いてある」と笑う。司馬遼太郎の話などしていたせいかと思うが、そう言われてみれば太宰にはあまり興味がなく本も読んだことがない。考えてみれば東北ではその地方ごとに特異な地位を占めている作家が多い。津軽の太宰を始めとして岩手の宮沢賢治、出羽の森敦などだが、それぞれ熱狂的なファンを持っているようである。

　雑談の中で、ガイドが岩手県出身だと聞いていたので、「炎（ほむら）立つ」と言う本を知っているかと尋ねたら「高橋克彦が藤原三代を書いて大河ドラマになった本でしょう」とちゃんと知っていた。同じ作家の坂上田村麻呂と戦ったアテルイについて書いた「火怨」や秀吉と戦った九戸政実についての「天を衝く」という本も知っており、更に作者は盛岡市に住んでいる筈だと言うので、思わずたいしたものだと見直してしまった。

　相変わらず雪が降ったり止んだりしている中を弘前市街地に入り、「津軽藩ねぶた村」という津軽ねぶたが陳列され、津軽三味線の実演が聞けるところで自由昼食と８０分の自由時間を取ることになった。ここは弘前城のある弘前公園の近くなので、公園内の観光が良いですよと言うガイドの勧めに従って弘前公園北門に向かった。
　　
　弘前公園には南側にある追手門（大手門）、東門と北門の３つの門の入口がある。北門は別名亀甲(かめのこう)門といわれる。これは中国から来た東の青龍、南の朱雀、西の白虎、北の玄武(亀)から来た名前である。その亀甲門の前に石場家という藩の御用商人の屋敷が残っていて国の重要文化財になっているが、現在も商店として使用している。。雪が積もっても人が歩けるように新潟県高田にあるような雁木を小さくした通路があった。亀甲門は堂々たる門構えをしていた。城が出来た頃はこの門が大手門だったせいでもある。数人の作業員が屋根の雪下ろしをしていた。（写真は石場家と亀甲門）

８．明治の洋館
　
 　弘前には明治時代に建てられたいくつかの西洋建築物がある。弘前観光の中心地である弘前公園追手門の前にある追手門広場には、明治３９年建立の旧弘前市立図書館と明治３３年建立の旧東奥義塾外人教師館が並んで建っているが、なかなかハイカラな建物である（写真は旧弘前市立図書館入口、図書館の全景、外人教師館）

　また少し離れたところに明治３７年建立の青森銀行記念館(重要文化財)が建っている。旧弘前市立図書館と青森銀行記念館は堀江佐吉という人が設計施工をしている。佐吉は独学で西洋建築を学び、明治時代の青森に於ける洋風建築のパイオニアになった人で、ほかにも旧偕行社（重要文化財)や焼失したが東奥義塾の校舎や金木にある太宰治の生家である｢斜陽館｣(重要文化財)も手掛けたという。（写真は青森銀行記念館と記念館の解説）

　佐吉を先達としてその弟子たちも洋風建築を数多く作ったが、それらの建造物を１０分の１サイズのミニチュアにした建造物１４棟が旧東奥義塾外人教師館の裏手に展示されている。しかし冬は雪で潰されるのを防ぐため、ベニヤで囲ってありよく見える状態ではない。

　次に「びゅうばす」は津軽藩主の菩提寺である長勝寺に向った。この寺は五木寛之の｢百寺巡礼｣東北編にも出てくる名刹で三門、御影堂、本堂、庫裏、津軽家霊屋、銅鐘が重要文化財になっている。長勝寺の前方には禅林街と呼ばれる津軽一円の曹洞宗三十三寺院を移した寺院群が立ち並んでその奥に長勝寺がある。重要文化財の立派な三門を入ると本堂の屋根には厚い雪に覆われ、庫裏は冬の補修の真最中だった。津軽家霊屋も雪が深くて入れたものではなく、写真を撮っただけで退散した。(写真は三門、本堂、津軽家霊屋、長勝寺からの禅林街）

９．エレクトリカルファンタジー

　弘前では毎年１２月はじめから２月末まで追手門広場や市役所前庭、追手門通りなどにイルミネーションを点灯し、文化財など１７施設のライトアップをしているというので、防寒対策をがっちりやって見に行った。追手門広場までは泊ったホテルから１０分弱の距離である。青森銀行記念館は昼間と違って光の中に浮き出ているようだ。

　その前にある市民中央広場では囲いで覆われた女性像がきれいにライトアップされている。弘前城追手門も重厚な姿で照らし出されている。追手門と堀と道路を隔てて建っている市役所の前庭の樹木はイルミネーションでまばゆく輝いている。
　少し足を延ばして日本キリスト教団弘前教会のライトアップも見に行った。この建物は佐吉の４男が建設したものでパリのノートルダム大聖堂をモデルにして造ったものである。

　その帰り道、ホテルの前の居酒屋に立寄った。ホテルのフロントから紹介された店である。弘前のうまい酒を飲ませてといったら、スタンドの先客が「豊盃」がいいよと言う。成程うまい酒だった。弘前の地酒だそうである。その先客は定連で仕事の帰りには奥さん公認で殆ど毎日ここに寄ってから帰るのだそうである。弘前は矢張り桜が一番だというので、混んで嫌だと言ったら「その後のりんごの白い花が一面に咲く頃も良いよ」と言う。
　「とにかく冬も良いけどそれだけではないよ」といろいろ教えてもらった。肴は白子を煮たものだったが白子は高級料理で少ししか食べられないと思っていたのに、小丼にいっぱい盛ったのが出てきて嬉しかった。前日泊まった浅虫温泉の話もしたが、棟方志功が滞在し板画もたくさん見られる椿館という旅館があるとの話。さらに南部人と津軽人の違いなどの話で盛り上がり、時がたつのを忘れるほどだった。これも一人旅の醍醐味である。
　(H22-1-14～1-15訪)